約 85,635 件
https://w.atwiki.jp/damecool/pages/12.html
投稿されたSSのまとめです。 【はっきり①】 女「男、ちょっち来い」 男「あ?」 男「なんだよ」 女「あのな、聞きたいことがある」 男「だからなんだって」 女「私は男のなんだ?」 男「……」 女「言え」 男「……彼女」 女「うん。男は私の彼氏だ」 男「そうだな……なんだよ?」 女「あのな」 男「おう」 女「キスするぞ」 男「……え!?」 【はっきり②】 男「な、お前……」 女「思えばな……私はお前の彼女らしいことをなんもしてない」 男「…」 女「いつも男にカバーされっぱなしで、それに満足していた」 男「まあ、俺の役目っつーか……」 女「……恩返しだ」 男「…」 女「私はバカだからな。こういうときどうすればいいか知らない……任せていいか?」 男「……ったく……お前はいつもいきなりだな」 女「…」 男「……一つだけ言っとこう」 女「なんだ?」 男「女はバカなんかじゃない」 女「え?」 ちゅっ… 男「……だめなだけだ。ちょっと頭が弱いだけ……そこ以外は愛してるからな?」 女「……うん……こちらこそ……」 ちゅっ… 「すまない、あそこはなんて書いてるんだ?」 男「ほら、ノート見せてやっから・・・」 女「助かる」 男「お前、コンタクトにしたんじゃなかった?」 女「うむ、さすがに10日間使用は厳しいようだ・・・」 男「ん?」 女「本来は1日使い捨てなんだ」 女「どうぞ、汚い部屋だが」 男「おうっ!夏なのにこたつ!つけっぱなしのPC!異様に長い電気の紐!エトセトラエトセトラ・・・」 【電気】 男「なあ」 女「なんだ」 男「お前の家の電気を停めたらどうする」 女「そんなことをしてみろ……絶対に男を許さんぞ……」 男「ちょっ、おま、恐っ」 女「そうか・・・そろそろあの時間か・・・」 男「どうした?」 女「男、コンビニへ行こう」 男「お、おいどうしたって!」 女「よし、そろそろだ・・・きた!」 男「おい、俺には何がなんだか・・・」 女「私の調査によるとこのコンビニでは、この時間帯に廃棄の弁当を捨・・・」 男「よし、俺のおごりでラーメン食いにいっか!」 【ベッドサイドテーブルにノーパソ天井の電気はリモコン式だが面倒なので手元の電気スタンド部屋の残りの部分は全部本棚】 男「女の部屋はそういうイメージがある」 女「ひとつひとつ説明しよう」 女「まずベッド。そんなもん置いていない。それを置いたら 床に何も置けなくなる。だからハンモックだ」 男「南国か」 女「あと電気。動いている物体がなければ、10分で消える自動ライトにしている。 おかげで10分おきに動かんと電気消えるのが難点だな」 男「すごいなお前」 女「で、本棚だがな」 男「それもすごいのか」 女「そんなものない。本なんか読むのすら面倒だ。あったとしても床に放置 本棚に入れることすらめんどくさいわ」 男「たくましいな……ある意味惚れ直したよ……」 女「・・・あのな・・」 男「ん?」 女「・・人間は生きながらにして腐るんだ・・」 男「?どしたの?」 女「・・・昨日な、おへその下にカビが生えたんだ・・」 男「!?・・・」 女「・・・」 男「・・・」 女「・・おっ、俺は人間をやめるゾー・・・」 男「・・・ちゃんと毎日風呂入れよ」 女「うん。ごめん。」 【最強の回復の剣盾】 女「めっさほしい」 男「いつ使うんだよ」 【すもち】 女「男、男」 男「なに」 女「すもーくちーずはあるかい?」 男「え?あるけど」 女「くれ」 男「えー……」 女「いいから」 男「しかたねーな、ほれ」 女「もくもく……」 男「旨いか?」 女「にょろーん」 男「??」 【されど】 男「あー、ほらもうお菓子のついた手でゲームして」 女「ムギュムギュ」 男「ほらこぼれてるこぼれてる。お前なー、もうちょっとちゃんとしろっていいうかクドクド……」 女「……」 男「ん? なんだ、言いたいことでもあるのか?」 女「あーい、とぅいまってぇーん」 男「……」 滅茶苦茶怒られました 【甘甘】 女「男」 男「なんだよ」 女「甘えてみてもいいだろうか」 男「よし、病院だな」 女「違う違う。あのな、やっぱ恋人なんだからそういうのも必要かと」 男「……いまいちよくわからん」 女「こうだ。むしゃむしゃ……」 男「……口の周りべたべただな」 女「うん。拭いてくれ」 男「それが甘えるってやつか」 女「みたいだな」 男「絶対違うと思うけどな……」 女「はーやーく。もう袖で拭きたくなってきた」 男「ちょっ、わかったわかった……」 ふきふき… 勝手に改変してみた 160スマン 【はっきり② Part2】 男「な、お前……」 女「思えばな……私はお前の彼女らしいことをなんもしてない」 男「…」 女「いつも男にカバーされっぱなしで、それに満足していた」 男「まあ、俺の役目っつーか……」 女「……恩返しだ」 男「…」 女「私はバカだからな。こういうときどうすればいいか知らない……任せていいか?」 男「……ったく……お前はいつもいきなりだな」 女「…」 男「……一つだけ言っとこう」 女「なんだ?」 男「歯は毎日磨け」 女「……」 プルルルルルル~ ガチャ 男「はいもしもし。」 女「男!やった!ついに私はやりとげたぞっ!!」 男「女か?まずもちつけ。深呼吸してから順を追って話せ。」 女「私は今日、ついに城を完全制覇したんだ!」 男「ゴメン、さっぱり話が見えないんだが・・・。」 女「長い日々だった・・・。これでようやく私にも安らかな夜が訪れる・・・。」 男(・・・話通じてねぇ・・・)「え~っと・・・なんだ?ゲームの話か?」 女「そう・・・苦節数年、ようやく・・・無限城を制覇したんだ!!」 男「無限城・・・戦国無双?」 女「当たり前だろ?あぁ・・・これでようやく猛将伝に取りかかれるよ。」 男「しかも1かよ!!呂布に会うのにどんだけかかってんだオマエ!?」 女「何を言ってる。呂布など、とうの昔に全キャラで倒したぞ。」 男「ちょ!クリアって虚空(999階)の方かよ!?」 女「さすがに全キャラで制覇するのは時間がかかったよ。」 男(絶句) 女「この感動を真っ先に君に伝えたかったんだ。」 男「そ、そうか・・・おめでとう。」(この調子じゃ猛将伝の無限城・改、さらには2やEmpでも・・・) とりあえず戦国無双が自分的にタイムリーだったので書いてみた 男「これはいったい・・・」 女「男根というものだ」 女「ふっ、すばらしい発見をした」 男「今度は何?」 女「トイレに行った後に手を洗うだろ?」 男「まぁそうだな」 女「それは手に付いた雑菌をとる為だ」 男「おぅ、なんか久しぶりに常識的な意見だ」 女「で、重要なのはここだ。用をたした後に汚れたところを拭かなければ手が汚れない!」 男「……拭かないの?」 女「で、早速やってきたわけだが…これはパンツが汚れてるという盲点があった」 男「パンツみせちゃらめぇぇぇぇ」 女「ああ。鑑賞・保存・末代に伝える用に三冊買ってやろう」 男「…お前って金持ちだな」 女「無論親の金だ」 男「まさにダメクール!!」 前 次
https://w.atwiki.jp/bokurobo/pages/162.html
聖界機兵セイカイオーIs 懐疑の弾丸・SS 連続SS プロローグ 第1話 新内閣 第2話 懐疑の弾丸1 第3話 懐疑の弾丸2 第4話 懐疑の弾丸3 第5話 懐疑の弾丸4 第6話 懐疑の弾丸5 第7話 懐疑の弾丸6 第8話 懐疑の弾丸7 第9話 懐疑の弾丸8 第10話 懐疑の弾丸9 関連SS 聖界機兵セイカイオー DBへ SS保管庫へ戻る
https://w.atwiki.jp/damecool/pages/13.html
投稿されたSSのまとめです。 【徹夜】 女「眠いな……」 男「寝ればいいじゃん」 女「そうもいかん……私を待っている人がいるんだ」 男「前から気になってなんだけど、お前はネットで何をしてるんだ?」 女「たとえばだな」 男「おう」 女「ここに私が書き込んだとするだろ?」 男「なになに……1000行ったら脱ぎます……!!」 女「ふふふ。これでな?この子達は皆興奮してだな」 男「ば、ばか!何してんだお前/////」 女「?心配するでない。ほんとに脱ぐわけないだろ?」 男「……」 女「散々もてあそんで放置……ふふ、やめられん」 男「……毎日こんなことしてて寝れんと?」 女「うん」 男「あやまれ。全国の高校生にあやまれ」 女「素晴らしいアイディアだ・・・」 男「んあ?また変なこと思いついたか?」 女「ブックオフに売られてる本の値札をはがして、何食わぬ顔で買取に出せば・・・」 男「頼むから犯罪だけはやめてくれ」 男「はっ・・・・はっ・・・・」 女「んっ・・・」 男(・・・・・こういうのなんていうんだっけ) 女「んっ・・・んっ・・・」 男(ああ・・・・マグロ、か・・・) 女「日本史、43点か・・・まあ赤点でなかっただけよしとしよう」 男「お前、意外に勉強できないよなぁ」 ゲーセン 機「昨年のWBCで・・・」 女「C、イチロー」 男「すげえ!正解だ。まだ問題言い切ってないのに・・・」 女「このゲームはやり込んだからな。問題はほぼ頭に入っている」 男(なぜその知能を学業に・・・) 女「日本の映像技術は素晴らしいと思わないか」 男「んあ?アニメとか?」 女「そう。あとはゲームだな。最早世界でゲーム、といえば日本製であると言っても過言ではない。 特に最近ではグラフィックの向上が目覚しく、そのクオリティは私達を魅了してやまない。 どうだ、君も世界最新鋭の映像を拝んでみたくないか?今なら6万5千円で提供できるぞ」 男「・・・PS3転売失敗したのか・・・」 女「まさかここまで売れ残るとは・・・しくじった」 男「しかも6万5千円って・・・そこのゲーム屋で買ったほうが安いじゃねえか」 女「いや、そうは言ってもやはり、日本製ゲームのクオリティには目を見張るものがある」 男「まあ、それは確かに」 女「という訳で男よ。何も言わずにWiiを7万5千円で買い取ってくれ」 男「要らん!つーかいちいち高いっつの! 何なんだ女、そっちも買い占めてたのか?」 女「いや、こっちは一台だけしか買っていないぞ」 男「じゃあ何で…」 女「理由は単純だ。これは私には合わない」 男「………」 女「いちいち動くのが面倒臭い」 男「何で買ったんだ……」 男「つーか女、お前かなり自堕落な生活してるくせによく太らないな」 女「ああ。痩せる為の努力はしているぞ」 男「ほう、女が努力とは珍しいな…例えば?」 女「林檎ダイエット」 男「…?またベタな…」 女「ああ。実家から大量の林檎が送られてきたからな。 先月はそれだけしのいでいた」 男「よし、今日は俺が夕飯作りに行ってやる」 ピポパットゥルトゥルトゥルルル・・・ 女「・・・・もしもし、私だ、私。ああ、そうだ。ん?何、最近喉の調子がな・・・いや、心配はいらない」 男(なんだ?親にでも連絡してるのか?意外に親思いなんだな) 女「実はな、ちょっとした傷害事件を起こしてしまってな・・・今警官に代わる」 女「男、警官役を頼む」 男「ごめんなさい間違い電話です」 女「男、時に問う」 男「ん?」 女「これ買ってきたんだよねー」 男「へぇ、女にしては珍しいじゃん」 女「お前の母さんから買い占めたんだ」 男「…そうだよな、俺のパンツだもんな」 女「うっそ」 女「男、明日デートでもどうだ」 男「んな!?お前のほうから誘ってくるとは・・・おいちゃんうれしいよ」 女「OKか?では明日十時、遺跡前で」 男「ネット上でですか・・・」 昼飯食ってて思いついたネタを。 女「カップラーメンをな、作っていたんだ」 男「カップめんの食いすぎはよくないぞ。せめて週一にしとけ」 女「お前はどこぞの父親か。まぁ聞け。フタに熱湯4分て書いてあるだろ?」 男「あるな」 女「しかし、ただ4分待つっていうのも退屈極まりない」 男「確かに」 女「だから私はその間のつもりで漫画を読んでいたんだ」 男「まさか」 女「気づいたら3時間たっていた」 男「あーあ、デロデロ…」 カップラーメン その2 女「カップラーメンをな、食っていたんだ」 男「結局アレを食ったのか」 女「そういうな。PCの前で食ってたんだけどな」 男「もしかして」 女「こぼしたー(´;ω;`)」 男「あーあ、キーボードびしゃびしゃ…」 /\___/ヽ 〃ニ;; `lヽ,,_ ≡ /' ' \ 〈 (lll!! テ-;;;;゙fn __,,--、_ .. . |(●), 、(●)、. | + ≡ /ヽ-〃;;;;;;;llllll7,,__/" \三=ー | ,,ノ(、_, )ヽ、,, . | ≡ 、/ /<;;;lllメ \ヾ、 ヽTf=ヽ` `-=ニ=- . | + j,, ヾて)r=- | ヾ ヽ;; | l | l \ `ニニ´ . / + ≡ ,イ ヽ二)l(_,>" l| \; | | | ヽ,,-‐、i / V i、ヽ--イll"/ ,, ,//,, ;; l // l く / l" i lll1-=  ̄\ ヾ== " ^ ;; /;;;;;;;;; ゞ ノ/ L/〈 t_イ /ll|─-== ヾ \__ / _;;;;;;;;;;;;;;;;;ノノ ヘ (゙ )l l-┴ヾ、ヽ )  ̄~~ ̄ ̄/ |T==-- // / ト=-| |-─ ( l / / l l / / / (ヽ--─ / | / ヽ_=--"⌒ ゙゙̄ヾ / / / ` ==-- ノ / / / / \/  ̄ "" // / / ヾ べ__;;;-- こうですか? わかりません>< 男「お前・・・最近大学行ってないみたいじゃないか・・・」 女「で?」 男「いじめられたとか嫌なやつがいるとかならできるだけ力になるからさ・・・」 女「いや、アニメチャンネルがおもしろいから行ってないだけ」 ※実話です 男「へぇ、女犬飼ってんだ」 女「ああ。私が言うのもなんだが、ふふ、なかなか可愛いぞ」 男「ほー。・・・・・・・・ちゃんと世話してんのか?」 女「失礼な。毎日3食高級ドッグフードを与えている」 男「ふむ」 女「もちろん運動も大事だ。毎日の散歩を欠かさず行っている」 男「・・・・・それに対してお前は毎日部屋の中」 女「その通り」 男「・・・・・犬を散歩に連れて行ってるのは」 女「弟だ」 男「・・・・・毎日三食欠かさず」 女「カップラーメンだ」 男「そういえば、韓国では犬を食うらしいな」 女「ほう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 男「・・・おい、お前まさか」 女「いや、今私の頭の中で愛情と食欲の天秤が・・・」 男「やめろ」 女「男! 男!」 男「おう、えらく威勢がいいな!」 女「私はやるぞ!」 男「何を?」 女「何かを!」 男「……そういや漫画でそんなのあったな?」 女「いや、ただ私の心情を語っただけなのだが……」 男「……そうか。具体的には何をやるんだ?」 女「大きなことだ」 男「うん、頑張ってくれ……」 女「ああ、頑張るとも。そして新世紀の神になろうと思う」 男(ダメだこいつ早く何とかしないと……) 男「お前さ、バイトでもしたらどうだ?」 女「ふむ。確かに労働することで、賃金だけでなく社会的経験を得るのも重要だな」 女「時給800円?バカバカしい」 男「・・・」 女「最低でも1000円は欲しい・・・ん、時給は高いが面倒な仕事だな・・・却下」 男「・・・・・・」 女「ふぅ、駄目だな。私に見合うだけのアルバイトなど存在しないようだ」 男(最近こいつ本格的にダメだわ・・・) 女「ふむ・・・これならいけるな」 男「お前よくそうやってメモ書きしてるけど、一体何書いてるんだ?」 女「これか、突然思いついたアイディアを忘れないようにな。が、詳しくは教えられん」 男「?ふーん・・・」 女「ふふふ、今日こそイミフに載ってみせるぞ・・・・」 女「男、明日のテスト範囲を教えてくれ」 男「おま・・・ほんと大丈夫なのかよ」 女「何を言っている。明日のテストまで後20時間近くある。つまり5時間寝るとしても15時間勉強できるというわけだ」 男「・・・・メシと風呂は」 女「夕食はカップ麺で済ます。これが10分。風呂は1日程度回避しても支障はない」 男「・・・・・・・」 女「くそ・・・まさか10時間も寝てしまうとは」 男「結局勉強しなかったわけか・・・で、その髪から察するに風呂にも入ってないと」 女「ネトゲキャラのレベルは2上がったが、私の学力は上がらなかったというオチだ」 男「何上手いこと言ってんだよ・・・」 前 次
https://w.atwiki.jp/debutvselder/pages/176.html
「新参陣営から見たBチーム各ターンの見せ場SS」【大団円な第5ターン】 【エクストラターン】 【エピローグSS・埴井葦菜の戸惑】 「新参陣営から見たBチーム各ターンの見せ場SS」 【大団円な第5ターン】 「ああああああああああああ!!!!」 御厨括琉(みくりやくくる)、B.J.アキカン、そして重川紗鳥(しげかわさとり)。 相次ぐ仲間の死に直面し、古参魔人名戯(なざれ)まりあの未熟な精神は崩壊した。 『落ちつけ!』 最愛の彼の言葉も最早彼女には届かない。 名戯まりあの子宮内恋人・名戯肯(こう)は呼びかけと同時に子宮口を内側からやさしく撫で、まりあを落ち着かせようとしたが、その懸命の努力は実を結ばなかった。 頭をかきむしり、奇声を上げ、一通りの狂気的行動をとった後、彼女は感情のままに目の前の敵を殺さんと駆けだしたのである。 『ちぃぃぃぃっ!』 母体の暴走を受けて肯は能力を発動した。 彼女に襲われた新参魔人・行方橋ダビデは魔人拳法の達人だった。 拳の鍛錬の過程で彼が得た洞察眼は、一目敵を見ただけで弱点となる部位はもちろん対象が現在かかっている病気や総合的な戦闘能力まで見えてしまう冴えのある逸品だった。 その優れた目をもって彼は名戯を「戦闘力を持たないただの人間」と判断し、迅速に処理行動へと移った。 戦闘時の彼には油断も容赦もなく、それは間違いなく最適な動作で行われた最善の行動だった。 向かってきた名戯まりあの喉を貫かんと一歩踏み込んで、必殺の手刀を繰り出したのだ。 その手刀は先程重川を貫いた時と同等の威力を有しており、砂の詰まったドラム缶程度なら易々と貫通する。 だが、その手刀は彼女の命を奪えなかった。 名戯の喉は薄皮一枚傷つかず、それとは対照的にダビデの右手は指先から手首までが粉々に砕け折れた。 『母さんは俺の嫁』 ダビデは砕けた右手の痛みを感じる前に絶命した。 手刀とほぼ同じタイミングでまりあが放った平凡な平手打ちが、軽い破裂音と共にダビデの顔面の大部分を消し飛ばしたためである。 行方橋ダビデ・即死。 名戯まりあの能力「母さんは俺の嫁」は正確には彼女の能力ではない。 それは彼女の子宮の中で彼女と共存する魔人・名戯 肯(なざれこう)の能力である。 まりあのお腹に突然宿された胎児である肯は知能が異常に発達しており、胎内で精神が中二に達し魔人覚醒した。 そしてその肯の溢れ出る中二力によってまりあの肉体を保護し、本来貧弱な肉体を屈強なものに変えるというのが「母さんは俺の嫁」という能力の正体である。 ダビデの手刀がまさに突き刺さらんとした瞬間、まりあは肯によって強化され、これを撃退したのであった。 ドス黒い中二力を放出させながら、ダビデを一挙の元に葬った名戯が新参陣営を睨みつける。 その両目からはとめどなく涙が溢れ続けている。 「……ひぐっ…ぁ…ぁん…くっ…くくるさんっ… アキカンさんっ……さ…ぐすっ…さとりちゃんっ……! …ねぇ…返して…? 返してよォーーーッ!!!」 次の獲物を狙い再び走りだした名戯を新参陣営二枚盾の武論斗さんが組み伏せにかかる。 ブ厚い鉄の扉に流れ弾丸のあたったような音を響かせ、両者は激突した。 ■ 名戯の暴走は古参陣営にとって都合の悪い出来事だった。 というのも、古参陣営の参謀である負一 統色(ぜろまえ とうしき)は現在の絶望的な戦況を総合的に判断した上で降伏を検討していたのだ。 しかし、名戯が新参魔人を殺した上に暴れまわっている現状、白旗がすんなりと受け入れられるとは思えない。 最低限暴れている名戯を止めないことには交渉の余地はないだろうと考えた負一は使者を送ることにした。 彼が使者に選んだのは六埜九兵衛(ろくのきゅうべえ)という魔人だった。 六埜は女性に裏切られ続けた(と思い込んでいる)嫉妬深い性格の雰囲気イケメン魔人である。 交渉をするにあたって彼の不安定な性格を考えれば決して適切な配役であるとは言えなかったが、名戯の暴走を止められる戦闘能力を持った魔人はもう他におらず、彼に頼らざるを得なかった。 そうして六埜は降伏を申し出る為に最前線へと向かったのである。 前線へ到着した六埜はすぐさま組み合っていた武論斗さんと名戯の間に割って入った。 そして「六埜さんどいて! そいつ殺せない!」と激昂する名戯の下腹部に向かって叫んだ。 「肯ッ! 勝負はついた! 今すぐまりあの強化をやめてくれ! 俺たちは負けたんだ!」 まりあをダビデから守る為に仕方なく能力を発動していた肯は素直にその呼びかけに応じ、まりあの周囲に漂っていたドス黒いオーラは消失した。 自身の力の減退を感じ取ったまりあはより一層の混乱を見せる。 「どうしてこれじゃあ殺せない!! 肯くんっ!! 六埜さんっ!! みんなみんな殺されちゃったんだよ!? どうして殺しちゃいけないのっ!!?」 錯乱する名戯の首に六埜はそっと自らの腕を密着させ、抱きしめるようにして絞め落とした。 そうして意識の無くなった名戯を床にそっと寝かせた六埜は流れるような動作で足を畳み、右手と左手を膝の前に揃えて地につけ、その人差し指と親指の間にできた空間に鼻を納めるようにして頭を下げた。 そう、土下座である。 「申し訳ありませんでした~! 俺たち、ダンゲロスから足を洗ってハイパーエリートになります!」 と、六埜は古参陣営の総意を新参陣営に伝えた。 緑風佐座・行方橋ダビデというかげがえのない仲間を殺された新参魔人達の中には降伏に納得できず古参殲滅を望む者もいたが、そういった者達は六埜の後を追うようにゾロゾロと集まってきた古参魔人達による一糸乱れぬ土下座芸に毒気を抜かれ、不満そうな表情を浮かべながらも降伏宣言を受諾したのであった。 余力のあった新参魔人達は陣営の勝利を祝い喜んだ。 ある者は歓喜のシャウトを轟かせ、ある者はかくし芸である南京玉すだれを披露した。 戦いで消耗していた者達は安堵の表情を見せへたり込み、亡くしてしまった両名を良く知る者達は改めて彼らの為に声をあげて泣いた。 こうして、新参vs古参ダンゲロスは新参陣営の勝利で幕を閉じたかに思えたのだが…。 気の緩んだ新参たちを見て、一旦は敗北を認めた古参魔人達の心に暗い影がちらりとよぎる。 油断しているこいつらになら勝てるんじゃね? 「やっぱやーめた! エリート人生なんか糞食らえだ! 死ねぇ!」 プライドを捨て襲い掛かろうと頭を上げた古参たちの目に飛び込んで来たのは、ゲスな気配を一瞬で察知して即座に戦闘体制に戻った新参達の姿だった。 諸語須川てけりの怒りと共にざわめき逆立った髪の禍々しさは古参の戦意を根こそぎ削いだ。 審刃津志武那が持つ天秤の放つ威圧間は意気込んで上げた古参の頭を再び下げさせるほどであった。 阿野次のもじが死線に向けて中段に構えた伝説の白いギターと、夢追中のスラリと伸びた脚の先で練られた殺気は数秒先にある死の香りを強く匂わせ、古参を後ずさらせた。 埴井葦菜の操る空を覆い尽くさんばかりのアシナガ蜂達が奏でる羽音は「決して逃げられない」という絶望感を古参に与えた。 二枚盾の阿吽像のような立ち姿は大いなる存在を想起させ、古参に芽生えた反逆心をかき消した。 稲荷山和理の武術家のような握りの構えを直視した古参は己の魂の消失をイメージさせられ、ただただ震えるしかなかった。 彼らの様はまるで歴戦の勇者。 ――あ、やっぱ無理だ 「すいませんでしたぁっ!」 一旦勢いで立ちあがった古参達はそのままはジャンピング土下座に移行した。 そんな彼らの姿は最高に格好悪かった。 ≪新参陣営≫ 死亡(2名) 行方橋ダビデ 緑風 佐座 負傷(4名) 武論斗さん 梨咲 みれん 夢追中 埴井葦菜 ≪古参陣営≫ 行方不明(1名) 月宮クズレ 死亡(4名) 御厨括琉 B.J.アキカン 重川紗鳥 真野望月 負傷(4名) 名戯まりあ 負一 統色 六埜九兵衛 香川 雨曇 ≪勝利陣営≫ 新参陣営 ~魁!ダンゲロス・完~ →新参陣営完全勝利! 次回!エクストラターン! 【エクストラターン】 新参と古参の戦いからちょうど一ヵ月後の今日、あの戦いから生還した新参魔人達は一所に集っていた。 彼らの集うそこは学園の敷地の隅に位置している雑木林の中で、横一列に並ぶ彼らの前には高さ3mほどの丸みを帯びた石があった。 大きく刻まれている「新参之墓」という文字が、その物体の意味するところを表している。 そう、本日新参魔人達は先の戦いで散った仲間を偲ぶために集まったのだ。 喪服を纏った彼らの顔には大なり小なり悲しみの色が浮かんでいる。 普段明るく元気な彼らもこの時ばかりはじっと佇み故人に想いを馳せていたのだ。 「あの時私が止めていたら」 「俺がもっと早く駆けつけていれば」 長い黙祷を経て、ぽつりぽつりと後悔と懺悔の言葉が漏れだした頃、その陰気な空気を打ち払うかのように彼らの背後から陽気な台詞が響いてきた。 「そんなことより野球しようぜ!」 やれやれどこの馬鹿野郎だと振り向いた新参達は自らの目を疑った。 声の主は先の戦いで死んだはずの緑風佐座であったのだ。 さらに驚くことに緑風の傍らには彼と同様に死んだはずの行方橋ダビデの姿もあった。 「緑風さん!! 行方橋くん!!」 いち早く一人の新参魔人が歓声を上げ彼らに駆け寄った。 それに続くように次々と歓声があがり、わらわらと二人を取り囲む。 「どうして! あの時確かに二人とも…!」 「あぁ、それは――――」 まるでテンプレート通りの質問に、緑風はニヤつきながら答えた。 あの時月宮の即死攻撃を受けた緑風の心臓は確かに停止したのだが、その代わりに魔人の核とでも呼ぶべき臓器が覚醒し彼の命を繋ぎとめたのだと。 ほら触ってみろよ、心臓はまだ止まったままなんだぜなどと無邪気に笑いながらに緑風は言った。 「じゃ、じゃあ行方橋くんは…!」 「死んだのは残像だ」 行方橋ダビデは平然と答えた。 残像使いとしてのスキルを極めた彼は、ついに自身と同じ容姿・思考・能力を持った残像を生み出すことに成功していたのだ。 彼は数年前に自身と完全に等しい7体の残像を生みだし、それを別々の場所に分けて安置していた。 そしてその完全なる残像は現在活動している「行方橋ダビデ」の消失をトリガーとし、新たなる「行方橋ダビデ」としてそれまでの記憶を引き継ぎ行動を開始するのだという。 二人の説明を聞き、新参達は更にヒートアップして矢継ぎ早に質問を投げつける。 「心臓て…緑風君月宮先輩の能力で爆散したんじゃなかったっけ…?」「ダビデお前は何人目だ?」「能力…その能力について詳しくお願いしますっ!!」「今までどこにいたのー?」「なんで二人は腕組んでるの? 死ぬの?」「スリーサイズは!?」「罵ってください!」 そんな弛緩しきった新参魔人達に突如異変は訪れた。 あれだけ騒がしかった新参魔人達の声がピタリと止んだのである。 声だけではない、動作もピタリと止まりそれはまるで見えない糸に括られたようであった。 常に冷静沈着な審刃津志武那(しんばつ しぶな)は現在の状況を整理した。 「(体が動かせない…! 皆も俺と同じような状態か… …恐らくこれは、行動封印系能力者の仕業! 古参の意趣返しか…? いや、こんなことのできる能力者は古参陣営にはいなかったはず… これはまさか…あの―――――)」 「御明察!」 フハハハハハハといかにもな笑い声を上げながらその男は墓石の上に現れた。 フードのついたマントをスタイリッシュに着こなすその謎の男は、行動不能に陥っている新参魔人達をまじまじと見下ろした後、愉悦に浸りながら演説を始めた。 「新参陣営諸君、先の戦い御苦労であった! 我々はGK10という陣営である!」 男の言葉をきっかけに墓石の後ろから10人の人影が現れた。 皆演説をしている男と同じデザインのフード付きマントを纏っている。 「まずは安心して欲しい! 動けない君達をこの場でどうこうしようというつもりはない! 本日我々は宣戦布告を目的にやってきたのだ! 君達は古参陣営を倒したことで少々増長しているようだが、彼らは所詮我々の残りカスに過ぎない! 我ら至高の10名こそこの学園の真の支配者なのだ! 圧倒的な能力と知略をその身に刻んでやろう!」 ワーワーと高慢な演説を持て囃すフードの男たち。 それに気を良くしたのか、墓石の上の男はフードを脱ぎ捨てた。 中から現れたのは声から連想できる通りの逞しい肉体を持つ漢臭い男だった。 その男は何を思ったのかフードを脱ぎ捨てたように帽子、学生服、Tシャツ、ズボンと順々に脱いでは捨てていった。 突然始まった誰ひとりとして得する者のいない脱衣所ショーに仲間達は唖然とした。 「あいつ、露出狂だったのか!?」「きっと汚い裸を見せつけることで新参の戦意を下げにいってるんだよ!高次元盤外戦術だよ!」「それにしても見苦しいなぁ…」 などと言っている間にその男の召し物はついに靴とブリーフのみになってしまった。 最後の砦たるブリーフに手をかけたとき、流石に仲間達も声を荒げて制止したのだがその声が彼に届くことはなかった。 こうして頭にブリーフ、足に靴のみを召した完成形変態が誕生したのである。 「あの…見苦しいのでせめてその粗末なものを隠して頂けませんか?」 見かねた一人のフードの男がそう言って白い布を墓上の男に向かって投げた。 その布をいそいそと身に纏う彼であったが、その行動がフード軍団にさらなる衝撃を与えた。 その投げ渡された布というのが丈の短いフリフリのエプロンであったのだ。 ヘッドブリーフ、フリフリエプロン、陰部丸出し、アクセントの靴という格好になってしまった彼は、もはや完成形変態の域を超えており、完了形変態と言っても過言ではない有様であった。 「…ぷっ! あははー 私だったら死んでるなー」 その言葉にようやくフード衆は集団の中に敵がいることに気付いた。 そう、墓上の男は操られていたのだ。 フードを脱ぎ捨てたその女は「身操屋(みくりや)」の異名を持つ操身術士―――― 「―――――貴様はッ! 御 厨 括 琉 ッ!」 「Yes, I am !」 フードの男たちはここにきてようやく臨戦態勢に入ったのだが、もうその時には手遅れであった。 ガションガションとミリタリーファンが泣いて喜ぶようなリロード音が新参魔人達の遥か後方からこだました次の瞬間 「ムーンライト・ミラージュ・バスター!!!」 というどこかで聞いたような必殺技名と同時に射出されたエネルギー奔流によって、墓上の男は昇華して気体になったのである。 能力を放ったのは月の力で戦う美少女古参魔人・月宮クズレであった。 予想だにしていなかった古参の強襲に対しフードの集団内には混乱が生じ、新参陣営を縛っていた能力が緩んだ。 それを機に一気に戦闘態勢を整える新参魔人達。 いよいよ危機的状況に陥ってしまったフード衆を「あらあらなんだか大変そうですねー がんばって下さーい」とニヤつきながら煽る御厨。 そんな忌々しい存在を叩き切ろうと一人の男が腰に刺していた魔剣を引き抜いた瞬間、その男の上半身は消し飛んだ。 「―――――重闘法:威蛮(じゅうとうほう:いはん)」 男を消し飛ばしたそれは、武道家古参魔人・重川紗鳥が用いる重川流格闘法の奥義であった。 武器を持った相手を遠当てにより遠距離から攻撃するのがその奥義の概略である。 「な、なんで! なんでおまえらが新参陣営に味方する!?」 もう余裕もへったくれもないフードの男は思ったことをそのままに叫んだ。 それに対して御厨が少し悩んでから答えた。 「『どうして新参に味方するのか』…ですか。 動機の言語化はあまり得意ではないのですが…。 …そうですね、至極単純に言ってしまえば、私たちが新参のことを気に入っているからです。 普段は使いっ走りに行かせたりたかったりしてイジメていても、いざという時は守ってあげたいって思うんです。 古参(せんぱい)ってそういうものではありませんか?」 ■ GK10を血祭りにあげた後、新参陣営と古参陣営が共闘して真・GK10と戦うことになるのだが、それはまた次のキャンペーンで。 【エピローグSS・埴井葦菜の戸惑】 古参との死闘を生き延びた葦菜は、己の人生の転機となった噴水広場にて、またも運命の出会いを果たす。 「そこのアナタ! 埴井葦菜さんよね?」 「? そうだけど……」 葦菜の前に現れたのは、タイトなスーツをキチッと着こなし、不敵な笑みを浮かべて腕を組んだ一人の女性。 テレビやネットにあまり明るくない葦菜は、この女性が誰なのかが分からなかった。 そんな葦菜の事情を察したのか、女性は名刺を差し出しつつ、名乗った。 「申し遅れたわ、私は悪鬼悖屋Sucie……一応、そこそこ名は通っていると思うのだけれど」 「Sucie? ……ああ! そういえば、前にホーネットが騒いでた、触手のアイドルの――!」 その女性――悪鬼悖屋Sucieは、今をときめく触手アイドルグループ・SKS48の生みの親である女子高生プロデューサー。 彼女は満足気に頷くと、鞄からホチキス止めされた紙束を取り出し、葦菜に手渡した。 不審に思いながらも受け取った葦菜は、その紙束の表紙に踊る字を見て衝撃を受けた。 極太フォントで印字されたその言葉は――『ツッコミ所が多すぎる天然ドM受けアイドル・アッシーナ プロデュース用企画書』! 「ハアアアアアアアア!? アイドル!? あたしが!?」 「アナタが、よ」 シルバーフレームのメガネをくいっと直しながら断言するSucie。 突然の非日常への招待状に目を白黒させる葦菜に対し、Sucieはさらに言葉を続ける。 「私はアナタ達の戦いを、それこそ作戦会議中からずっと見ていたわ。 魅力的なコはたくさんいたけど、その中で私の目を最も釘づけにしたのが、そう、アナタよ! アナタの常軌を逸したアイドル力は、最早アイドルの神様が与え給うた贈り物に違いないわ! あとは私に全てを委ねれば、アナタは史上最高のアイドルになれるわ! さあ、身も心も私に任せなさい! さあ! さあ! さあアアアアアアアアアアアアアア!!」 「いっ……いやあああああああああああああ!!」 奇声を発しながら恐ろしい形相で迫りくるSucieと、彼女から必死に逃げ惑う葦菜。 この場所で、このシチュエーション――どこかで見たことがあるかも、などと思う葦菜の前に、見知った人影が現れる。 葦菜は「助かった!」と笑顔になり、救いを求めその少女――埴井ホーネットの元へと走り寄る。 「いいところに来たわね! 助けてホーネット――」 「えいっ!」 どんっ、と、いつか見た光景を再現するかのように、無情なる両手が葦菜を突き飛ばした。 今度は自分がすってんころりんと転がる役になった葦菜は、露わになった純白を隠すこともせず眉を吊り上げ怒りの炎を燃やす。 そしてホーネットに怒声をぶつけてやろうと開いた口は、しかして呪詛の言葉を吐くことはなかった。 「あんた、何すんの――」 「つうううかまあああえたあああああああああ!」 「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」 Sucieに肩をがっちりと掴まれ、葦菜は悲鳴をあげながら地面に組み伏せられた。 そのままマウントをとられ、その場で制服を剥ぎ取られ次々と衣装合わせをさせられる葦菜を見下ろすホーネット。 やがて彼女は「べーっ」と舌を出しながら、一言つぶやいた。 「この前のお返しですっ!」 葦菜の拒絶により二人の変態にもみくちゃにされた例の一件は、なんだかんだで頭にきていたようであった。 ともあれ、因果応報というべきであろう、見事に捕まってしまった葦菜は、敏腕プロデューサー魔人・悪鬼悖屋Sucieと共にアイドル街道まっしぐらである。 埴井葦菜の戸惑も、いつかは目立つことへの快感へと変わり、それは同時に「埴井葦菜」から「アッシーナ」への変身をも意味するのだろう。 <終>
https://w.atwiki.jp/rangers-strike/pages/262.html
RS-217 SS(スタスタ)スタタンゾ Sユニット パワー1 CN2 BP2000 SP- ノーマル 追加条件 【家出したくなるガソリン】 バトルエリアにある特徴「車両」を持つユニットを1体選び、持ち主の山札の下に戻してもよい。 男/怪人 ダークアライアンス 激走戦隊カーレンジャーVS超力戦隊オーレンジャー フレーバーテキスト 頻発する謎の暴走。整備士達は一日の終わりに車輪を外すのが日課になってしまった。 備考・解説 イラスト 村上ヒサシ 収録エクスパンション 第4弾自販機&パック リヴァイヴァ自販機&パック 関連カード Q&A Q: A:
https://w.atwiki.jp/tokimeki_dictionary/pages/1124.html
Atariya 当たり屋【あたりや】 『ときめきメモリアル』シリーズに多く登場する輩で、漫画でもお馴染みのパンを咥えたままゴッツンコ、というお約束のシチュエーションである。 『1』(というか全作品)では何といっても館林見晴の名前が真っ先に挙がるだろう。 再三再四(と言っても3年間で最大5回だが)主人公にぶつかってきて「また当たり屋か…」と回数を重ねる度に呆れられている。 これには彼女なりの健気な理由があるのだが…。 次に思い浮かぶのが朝日奈夕子だろうか。 雑学の上昇に応じて3回主人公にぶつかってくる訳だが、ここでも主人公は「新手の当たり屋か!」と憤慨している。 館林と一度もぶつかっていなくてもそう言うのだが、それでは古手の当たり屋とは誰なのであろうか気になるところではある。 ただし、雑学が91以上の時に平日コマンドで遊びを実行する事で四度目の正直(?)で正式に登場する為、登場させるか封印するかはプレイヤーが任意に決められる。 鏡魅羅の登場シーンも当たり屋と言えよう。 本物の当たり屋もびっくりといった感じで派手に転んでしまっている。 『2』では、早くも入学式当日に当たり屋が出現する。 クラス分けの表を見ていた主人公に陽ノ下光が激突してくる訳だが、これが感動の再会になるのか、爆弾魔との不幸な邂逅になるのかを決めるのはプレイヤー自身である。 佐倉楓子の登場シーン(主人公が野球部以外に所属の場合)もこれに当てはまる。 急いでいたと見えて、主人公にコブが出来るほど激しく衝突してしまうが、当たり所が相当悪かったのだろうか…。 そして白雪美帆である。本人曰く「ぼーっとしていた」との事なので何やら空想でもしていたのだろう。 最後に寿美幸は幼年期に神社で主人公とぶつかっており、何とお互いのおみくじが入れ替わるという珍事も起きている。 こちらは主人公とは関係無いが、トラックに3回もはねられてしまう事故があるが、これは単に不幸なだけであって間違い無く本人に当たり屋のつもりは無いと思われる。 というか3回もはねられたのに無傷とは、寧ろ不幸を上回って幸運とも言えると思うが…。 何よりトラックの運チャンの方が、相当肝を冷やした事であろう。 『3』にも初対面では無く当たり屋とまでは言えないだろうが、相沢ちとせとも廊下でぶつかるイベントがある。 『4』でも伝統を守るべく(?)当たり屋が1人登場する。 柳冨美子がその人であり、彼女の登場パターンは放送部のクラブコマンド実行と容姿コマンド実行の2つあるのだが、どちらで登場させたとしても主人公とぶつかる事で登場となる。 何やら当たり屋としての行動が染みついているような観さえある。 こうして見ると3作品でざっと挙げても8人(+1作品に1人それに近い)の当たり屋が存在している。 主人公ならずとも「いい加減にしてくれ!」と言いたくなるところである。 ちなみに… 『1』の2年後に発売された他社の『トゥルー・ラブストーリー』では、館林役の菊池志穂さんはメインヒロイン・桂木綾音役で出演されているが、彼女との出会い方の一つに主人公とぶつかるというシチュエーションがある。 関連項目 用語 セカンドキスシステム
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/902.html
「よし、終わったぞ」 衛宮士郎は、“サーヴァント”の分解掃除を終えた。 目の前にはカラシニコフと呼ばれるアサルトライフルが存在する。本物ではあるものの、別にヤバイルートで手に入れた物では無い。彼(あるいは彼女)も冬木の地に召喚されたサーヴァントの一柱、機械も英霊になる事はあるらしいとは魔術の師匠であるあかいあくまの弁だ。 「士郎さん、ここの掃除は終わりましたか?」 振り向くと土蔵の入口には、女性が立っていた。 絶妙な形で作られた顔の造形。 衣服の上からでも分かる豊かな双丘とくびれた腰。 うなじ付近でまとめられた緑がかった美しい髪。 間違いなく美女と呼べる外見を持っているが、全身から発せられる慈母のように温和な雰囲気のおかげで、すこしもとっつきにくくない、共にいるだけで安心させてくれるような女性だ。ただ、何故か固く目を閉じている。 「ラミア、庭の掃除は終わったのか」 「ええ、大勢手伝ってくれましたから、もうすぐ終わります」 ラミア―――かつてリビアの王女だった女性は、「当然」とも言うように笑顔を見せた。 ある忍者は、植木を整える。 ある忍者は、掃き掃除をする。 ある忍者は、ごみを出しに行く。 「よう。衛宮の、庭の掃除はもうすぐ終わるぞ」 縁側に座って、乱破衆の指示をしている黒衣の暗殺者が呑気そうに言った。 「ありがとうな、小太郎、茶でも出すからゆっくりしていってくれ」 「そりゃ、ありがとさん」 アサシン―――風魔小太郎は、頭巾を脱がないように、器用に口に茶を注いだ。 「美味い」 「悪いな、宝具まで使って大掃除手伝ってくれて」 「構わんさ、俺達もこの屋敷にはだいぶ世話になっている」 そこで小太郎は明後日の方向をあごでしゃくる。 エウロペが修理を終えた家電をアステリオスが運び出す。 巴御前が畳の埃を叩いている。 トム・サムが排水溝に潜り込んで掃除をしている。 ラシードは天井裏に上がって本格的に掃除をしている。 皆、世話になっている衛宮の屋敷の大掃除に来てくれた英霊達だ。 「本当に、みんな頑張ってくれているよ。お礼の夕飯は奮発しないとな」 「料理を頑張るのはいいですが……あまり、無茶はしないようにしてくださいね?」 「わかってる、わかってる。自分の身体は大事にするからさ」 ラミアが心配そうに注意するが、士郎のさほど気にしていない様子に、ラミアと小太郎はそろってため息をついた。 元々この地にあった聖杯を大勢のキャスター達が改造した『大聖杯・マークⅡ』のおかげで、この地に集う英霊達に本来食事は必要無いのだが、それでも食べたいというのが人情だ。 快く食事を作ってくれる衛宮士郎の人柄に甘えて、衛宮邸は多くのサーヴァントが集まっている。 当初は大挙して押し寄せてくるサーヴァント達(と、虎)の胃袋を満たすための材料費を稼ぐために士郎がバイトで働き続け、過労死しかけたことさえある。 その後は、熊太郎が魚を捕ってきたり、ハーロットが資金援助をしたり、行基の温泉で身体を療養したおかげで持ち直したが、もしあのまま突っ走っていたら、食事を作り続けるために世界と契約しようとしていたかもしれない。 絶対そうなっていただろうというのが、少年を知る者達全員の総意だ。 「しーろうー、お姉ちゃんお腹すいちゃったよぅー!!」 「ああ、わかった。今作る」 大河のご飯をねだる声に、士郎が立ち上がる。ラミアと小太郎も席を立った。 台所に行く士郎を見て、小太郎がラミアに耳打ちする。 「ありゃ、また無理するかも知れねえからな。俺達がまだ見てやらんといかんなあ」 「ええ、そうですね」 ラミアが苦笑する。手のかかる息子を見るような目で、二人の英霊は少年を見ていた。 「いただきまーす!」 掃除を一段落させた衛宮邸の住人達は、今のテーブルを囲んで昼の食事をとっていた。 最も、あまり手のかかった料理では無く、おにぎりやパンなどの簡単な食事になった。 「形が不揃いですけど、誰が作ったんですか?私は玄関の掃除していたし、姉さんは自分の部屋の掃除だし……」 不格好なおにぎりをほおばりながら、士郎の後輩である間桐桜が聞く。 「私と、メリーさんとイヴさんですよ」 「そうそう、イヴさんてば凄いのよ!腕のパーツを増やして中身が違うおにぎりを一秒に十個作っちゃうの!」 壱与の言葉に続く形でメリーが興奮した様子で話す。 皿の上に山盛りになっているおにぎりをよく見ると、半分は桜が食べているような形だが、もう半分は規格生産されたみたいに決まった形をしている。 「そういえば、形・量とともに一定だな」 「コンビニエンスストアで販売されているおにぎりを参考にしました」 抑揚の無い声で話すのはメイド服の女性。 その正体はキャスターの一人、ソロモン・イブン・ガビーロールが作り出した機構侍女・ 『機械仕掛けの生命(イヴ・エクス・マキナ)』だ。本来なら主であるガビーロールの元で研究の補佐に当たっている彼女だが、大掃除に人手が必要という事で、凜がガビーロールに預けてある借金のカタに無理矢理引っ張ってきたのだ。 「ところで衛宮様、この家屋における清掃達成率は現在目標の85%を超えましたが、未だに手をつけていない場所があります」 「えっ、そうだったか?どことどこだったかな」 「パラケルスス様のラボです」 その言葉に、多くの英霊達の食事が止まる(虎と金時は構わず喰っていたが)。 パラケルススという名をこの冬木に住む英霊やその関係者の中で知らない者はまずいない。いたとしてもアホの子ローランくらいのものだろう。 何せ、彼は汚染されていた大聖杯を、他者の宝具まで使用して汚染を除去し、サーヴァント達が現界に支障が無い程度の魔力供給装置に改造してくれたのだ。 士郎にとっても時に魔術を見てくれたりしてくれるありがたい相手だ。 だが、パラケルススにも欠点はあった。 というより疑問だが、いついかなる時でも帽子を取ろうとしない事(行基の温泉にもかぶって入っていた)と、どうやらそれに関連する問題らしいのだが、変な薬をサーヴァントや魔術師に飲ませようとするという悪癖があった。 士郎自身紫色の液体を飲まされて毛髪が七色の極彩色に染まったことがある。 色々な意味で恐れられているパラケルススの工房、自然と身体が硬くなる。 「その……当のパラケルススはどうしているんだ?」 「「魔術師に年末年始もクソもあるか」と言い残され、中国の秘境に薬草を探しに行っております」 「……そうか、あそこを掃除しないと正月が来ない」 魔術師の工房に、基本他人は入れない。故に、魔術師は様々な防衛手段をこらす。 特にこの衛宮邸は様々なキャスターがむちゃくちゃな改造を施したために、地下室や隠し部屋、罠の類まで設置され、もはや冬木の謎の異空間と化しているのだ。 その中でも、パラケルススの部屋は同業のキャスター達でも入った事が無いらしい。 「パラケルスス様が中国に行く前に事前確認を行ったところ「危険な物は無いので勝手に片付けといていい」とのことでございます」 相変わらず抑揚の無い声で良い仕事をしたイヴに、心の中で喝采を送りながら衛宮邸大掃除実行委員会責任者の肩書きを持つ士郎は、指示を飛ばす。 「よし、藤ねえと桜を除いて、みんな後でパラケルスス・ラボの前に集合だ」 「せ、先輩。いくらなんでも危険すぎます。パラケルススさんの帰国を待った方が……」 「大丈夫だ。桜。危険な研究はしないように約束してるんだから……多分」 ガチャリ。金属が離れ合うような音が響いた。 「よし、終わったぜ。ヤローかなり複雑な術式を組んでやがった」 赤髪に赤い目をしたガラの悪そうな男、魔術王ソロモンの手によって、禁断の扉は開かれた。 「よし、行くぞ。みんな、準備はいいか?」 士郎は投影した剣を握りしめ、共に突入する仲間達を見つめた。 「おう」 風魔小太郎は手裏剣を投げられる体勢のまま、片手には雑巾とバケツを持っている。 「大丈夫よ」 メリーの右手には出刃包丁、左手にはハタキが握られている。 「いざという時はすぐに逃げましょう。メリーさんと一緒なら大丈夫です」 ラミアは、少し緊張した様子で箒を握りしめた。 人選には理由がある。 掃除が得意であり、周囲の状況が視覚以外の情報で理解できるラミア。 瞬間移動ができるメリー。 敏捷性に優れ、また忍者であるために罠にたいして鼻がきく小太郎の三人だ。 他のメンバーには、いざという時に備えて待機して貰っている。 「じゃあ……いざ突撃!」 結論から言えば、何もおこらなかった。 ただ、部屋には机と、荷造りされた荷物が少しあっただけだった。 「生前は協会だかに追われてた御仁だ。いついかなる時でも移動できるように癖がついちまったんだろ」 とは、小太郎の弁だ。兎にも角にも四人は掃除を始める事にした。 「士郎、この荷物はどうすんの?」 「あまり、触らないように、あとでパラケルススに聞いて、いらないものなら捨てるんだ」 「なんだよ。こりゃ、漫画じゃねえか。あの人本当に大昔の魔術師か?」 「必要な物かどうか分からないから、隅にまとめておきましょう」 順調に進む片付けに、ラミアも安堵しながら物を運ぶ。 「ええと、これは」 ―――もしゃり。 「ん?」 何か奇妙な音が聞こえた。音がした方向を見てみると、そこには押し入れの扉があった。 「あの、士郎さん。ここはまだ片付けていませんよね?」 「あ、うん。そういえばその押し入れの中には何が入っているんだ?」 「ええと、それが……」 「何々?この押し入れ掃除すれば良いの?」 ラミアが止める暇も無く、メリーが取っ手に手をかけ、思い切り横に引いた。 「帰ったぞー」 「あ、パラさん。お帰りなさーい」 扉を開ける中国帰りのパラケルススに、かたづけをしていた壱与が声をかける。 「衛宮のぼうやはいるかい、壱与ちゃん?薬草酒でも作って貰おうと思ったんだがよ」 「ああ、士郎さんなら今パラケルススさんの部屋を片付けていますよ」 「へー、そりゃ悪いな……あ、そういえば押し入れは開けてないよな?」 「え?押し入れが何かまずいんですか?」 「ああ、言い忘れたんだが……」 「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」 「こ……これは一体」 「何コレ何コレ何コレ!!!!」 パニックになったメリーとラミアの指さす先にいるモノに、士郎も呆然となっている。 それは毛だった。毛の塊だった。最初はモップか何かだと思ったが、それが素早い動きで壁や天井を這い回る姿は、生き物でしかあり得ない。 「け……毛羽毛現?」 毛羽毛現、あるいは希有希現とも称される。毛むくじゃらの妖怪であるそれを、士郎は連想していた。 「妖怪変化の類かよ!?」 流石に小太郎は日本の英霊だけあって、その手の話にも強い。故に行動も素早かった。 「衛宮の、嬢ちゃんがた、当たるなよ!」 手首のスナップを最大限に生かし、天井に垂れ下がっている毛玉へ向かって手裏剣を投擲する。 空気を切り裂くそれは標的に殺到した。並の英霊では回避すら難しいそれをしかし―――。 「何!?」 手裏剣の全てを毛玉は回避した。それは避けたと言うよりむしろ―――。 「飛んだ!?」 鳥のようにというよりも、昆虫のように部屋中を飛び回るそれはもはや尋常な生き物ではないだろう。女性軍も戦闘態勢を整えた。 「私メリーさん、今あなたの横にいるの!」 瞬間、メリーの姿がかき消える。そして毛玉の至近に出現したメリーは力一杯出刃包丁を振り下ろす。 「やったか……いや、浅すぎる」 斬撃は、妖怪の毛を僅かに切り落とす程度の戦果しかもたらさなかった。 更に―――。 「士郎さん、避けてください!」 「しまったあ……ムググ!」 一瞬の隙を狙い、毛玉は狙いを士郎に定めたらしい。毛の塊は士郎の顔に着地し、そのまま離れようとしない。 「なろお!」 「士郎から離れなさい!」 メリーと小太郎が引っぺがそうとするが、下手に手をつけると士郎に何をするか分からない。結果的に見ているしかできない。 「ムググムグムググググ」 士郎の身体が痙攣を始める。口と鼻がふさがれて呼吸困難に陥っているのだろう。必死に毛玉を剥がそうとするが、それでも離れようとしない。 「キャスター連中呼んでこい、メリーの嬢ちゃん!こいつの正体調べん事にはどうにもならん」 「分かった!私メリーさん、今あなたの後ろにいるの!」 そうしてメリーの姿がかき消える。残された小太郎はともかく毛玉をどうにかしようと小刀を取り出した。 「どけよ毛玉―――」 「くふ、くふふふふふふふくふふふふふふふふふふふふふふふふふふくふふ」 奇妙な笑い声に言葉が遮られる。 含み笑い。それを発していたのは、先ほどまで呆然としていたラミアだった。 見ると、表情は陰になってよく分からない。 だが、口角だけがつり上がっていた。 ぺろ。 妙に長い舌が形の良い唇を舐める。傍目から見れば妖美な仕草だが、小太郎にとっては肉食獣がうなっているようにしか見えない。 「悪い子ねぇ……悪戯しちゃダメっていつも言ってるでしょ……」 ようやく台詞を発したラミアは、そのまま床で呻いている士郎に馬乗りになる。 そのまま毛玉を鷲掴みにした。 むんずと掴まれた毛玉は、じたばたと動き続けるが、ラミアは決して離そうとしない。 「くふふ、柔らかな毛並みねぇ……」 すると、おもむろにブチリと毛を毟り始めた。 毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。 解放された士郎を診ながら、小太郎はラミアを止めようとする。 「なあ、そいつの正体が分からない以上、下手に手を出すのは」 ラミアは小太郎の言葉を全く意に介さず毛を毟り続けている。 「なあ、そろそろ……」 そこでぴたりと毛を毟る手が止まる。そして、顔を向けずにラミアが一言。 「嫌です」 そして毛を毟る行為が再開された。 小太郎はあくまで正体不明な生物に対し、不用意な行為はやめておいた方が良いと思うから忠告したのだが、ここまで拒絶されては立つ瀬が無い。 おまけに、本気で怒っているラミアに無理矢理止めさせるということもできそうにない。宝具を使われれば自分は粉々にされるだろう。 「……仕方ねえか、危なくなったら助けりゃいい」 ラミアが無言で毛を毟っていく内に、毛玉の体積が小さくなっていく。 そしてその姿が現れる。 小太郎は驚愕したが、ラミアに告げるのはあまりにも危険だと判断し、無言を貫く。 「あら、これ何かしら……」 目の見えないラミアが感触で『それ』の正体を理解した瞬間――――――時が止まった。 「ぎ……」 「■■■■ッ!?あれは■■■■だったっての?」 廊下を走るのは帰国したパラケルススと、助けを呼びに来たメリーだ。メリーは初めに待機していた英霊に助けを求めようとしたが、パラケルススが帰ってきた事を聞き、急遽部屋の主に助けを求めた。 その時に、毛玉の正体について聞き出した結果、恐怖の正体が明らかになった。 「そういえば、最近見なかったけど……」 「寒いと動きがにぶるとか相談されてな、試薬を試したらもっさり毛が生えてきてよ。そのまま繁殖しない事を条件に俺の部屋に住まわせてたんだ」 「住ませるな!!あいつは黒い悪魔よ!!医者が■■■■保護してどーすんの!!」 「実験台を志願してくれる結構いい奴なんだよ。しかし、暫く見なかったもんだから、忘れてたぜ。突然掃除されて、パニックになってなけりゃいいが」 「パニックになってるからこんなことに……」 轟音。 屋根瓦が梁ごと飛び、ついでに天井裏を掃除していたラシードがべちゃりと庭に叩き付けられる。 ペンテシレイアを口説こうとしていたパリスが瓦礫に頭をぶつけ、倒れたところをヘクトルとカサンドラにフルボッコにされていた。 ブーディカは二人の娘が瓦礫に押しつぶされそうになった事に激怒し、戦車を走らせ暴れまくっている。 「ぎゃああああああああああああがあああああああああああああああああ!!!!!!」 獣の唸り声に似ているが妙にリズムが良く、聞きようによってはオペラ歌手のように美しい声が周囲に響き渡る。 それを発しているのは蛇の下半身を持ち、紅玉のように美しい瞳に狂気の色を浮かべた女性の姿。彼女は現在進行形で衛宮邸を破壊していた。 ぶーん。 メリーとパラケルススの元に、毛を中途半端に抜かれた■■■■が飛んでくる。その姿に生理的な嫌悪を覚えるメリーだが、それ以上の根源的恐怖が■■■■を狙っていた。 「ぎいいいいいいいいいいいいいいぐああああああああああああああああああ!!!!!」 「い!?」 「ちょっと、タイム!私、メリーさん今あなたの後ろにいるの!」 メリーが消える。何処か安全地帯に逃げた事は明白だ。 残るのはパラケルススと■■■■、そして宝具全開で暴れるラミア。太い蛇の下半身が、怨敵を押し潰そうと持ち上がる。 「な……おい、ちょっと待て。おい、たんま、タイム、ストップ!ヘルプー!!!」 ずん、という重い音と共に周囲が沈黙する。が、 ぶーん。 敏捷A+は伊達じゃ無い。■■■■はそのまま逃げ続けようとする。 当然、ラミアがそれを逃すはずも無く、彼女が正気に戻るまで被害は拡大し続けた。 ごお~ん。 「鐘の音は、心が洗われますね……」 「和の心ってやつかね」 しみじみした様子で聞き入るラミア、包帯でグルグル巻きにされたパラケルススもそれに続く。 「ああ、除夜の鐘は煩悩を打ち払うっていうもんな」 年越しそばを持ってきた士郎は、英霊達に配っていく。 メリーはそばを口に含むと、顔をほころばせた。 「あら、美味しい。鶏肉入りね」 「お代わりはまだあるぞ」 「……なあ、現実を見ろよ」 「ああ、風通し良さそうだな」 小太郎の冷静な突っ込みに、士郎は衛宮邸だった物体を見た。 真っ二つ。 ちょうど母屋の中心部からラミアの尾が直撃した衛宮邸は包丁で切られたスイカ宜しく二世帯住宅になっていた。 ラミアは蒼白になりながら、謝罪の言葉を口にする。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 小動物のように身体を震わせるラミア。その彼女に、士郎は優しく声をかける。 「大丈夫だ。俺正義の味方だから」 「し、士郎さん……」 「例え聖杯戦争のたびに何度も何度も何度も家がぶっ壊されて、保険会社に説明もできないから保険金がさっぱり下りずに、 修理費が自腹を切る羽目になってバイト先を増やしたり、黄金律持ってる連中に頭下げて金を借りたりしないといけなくて、 近所の人達の噂になって肩身の狭い思いをして、修理が終わるまで寒風が吹き込む家の中で暮らさないといけなくても、 大丈夫だぁ……ははははははははははははははははははははははははははは」 「し、士郎さぁん!」 「今は泣いててもいいぞ。衛宮の……とりあえずあけましておめでとうございます」 除夜の鐘が響く夜空に、一台のソリが飛んでいく。 聖ニコラウスが乗り込む『聖夜の架け橋(シュティレ・ナハト)』だ。 ソリの上から何かをまくとそれは爆発し、色とりどりの花火となった。 火花が夜空に文字を描く。 HAPPY NEW YEAR!! 新年おめでとうございます。 初めてSSを投稿する者です。 思えば去年だけでも多くの英霊達が召喚されました。今年もまた、皆鯖の発展を祈って、このSSを贈りたいと思います。それでは皆様お元気で。
https://w.atwiki.jp/tokimeki_dictionary/pages/988.html
待ち合わせ場所 デートスポット 開催時期・追加条件 追加デート 陽 水 寿 一 白 赤 八 伊 麻 真 伊集院大橋 河川敷公園 フルシーズン ひびきの中央公園 並木道・噴水 桜の季節以外 茶 フ フ フ 桜並木 毎年3月15日~4月15日 植物園 フルシーズン 喫 茶 喫 茶 美術館 通常 1999年6月20日以降 茶 喫 茶 喫 茶 ガラス工芸展 1999年夏 彫刻展 2001年秋 タワー 2000年12月20日以降 茶 フ フ フ コンサート会場 KNM交響楽団 2~3年目夏 茶 フ フ フ 歌舞伎座の怪人 2000年10月10日~3月25日 SPEACH 2001年5月3日~5月20日 アオシス 2001年10月3日~10月28日 T.Mレクリエーション 2001年12月1日~12月31日 GROY 2002年2月10日~2月25日 スケート場 毎年冬 茶 フ フ フ 神社 毎年7月の第4日曜日 駅前広場 ショッピング街 洋服・小物 フルシーズン 喫 喫 喫 喫 喫 茶 喫 ジャンク屋 伊集院メイとショッピング街でデートすること カラオケBOX フルシーズン 喫 喫 喫 喫 喫 茶 喫 ゲームセンター ビデオゲームコーナー フルシーズン フ フ フ フ フ メダルコーナー 2001年3月29日以降 ボウリング場 ボウリング フルシーズン フ フ フ フ フ ビリヤード 2001年6月23日以降 映画館 リハーサルウェポン4 1999年6月9日まで 喫 喫 喫 喫 沈没船恋物語 1999年6月10日~2000年6月9日 喫 茶 プライベートライオン 2000年6月10日~8月31日 マルハゲドン 2000年9月1日~2001年4月30日 喫 LAコンチネンタル 2001年5月1日~12月10日 ゴッドリラーVS二大帝国 2001年12月11日以降 水族館 通常 フルシーズン フ 大 フ フ フ フ ペンギンショー 2001年1月4日以降 バス停 動物園 フルシーズン 喫 大 喫 大 茶 喫 遊園地 観覧車 フルシーズン 喫 大 大 喫 大 茶 喫 ジェットコースター 2001年8月31日まで メリーゴーランド 2001年8月31日まで 占いの館 2000年1月8日まで バーチャルハザード 2000年11月1日以降 茶 喫 オチール 2001年11月1日以降 ナイトパレード 毎年8月 スタジアム プロ野球 毎年4月~8月 サッカー 毎年10月~3月 室内プール 2001年3月10日以降 フ 大 大 フ フ フ サーカス 1~2年目2月16日~3月15日 ひびきの駅 海 毎年7月~8月 山 毎年10月15日~11月15日、12月~2月 補足 季節で書いてある場合、春は3~5月、夏は6~8月、秋は9~11月、冬は12~2月 1年目:1999年4月5日~2000年4月4日、2年目:2000年4月5日~2001年4月4日、3年目:2001年4月5日~2002年3月1日 追加デート先はフ:ファーストフード、喫:喫茶店、茶:茶店、大:大衆食堂 陽:陽ノ下光、水:水無月琴子、寿:寿美幸、一:一文字茜、白:白雪美帆、赤:赤井ほむら、八:八重花桜梨、伊:伊集院メイ、麻:麻生華澄、真:白雪真帆 関連項目 地名・デートスポット デートスポット詳細(『1』) デートスポット詳細(『3』) デートスポット詳細(『4』) デートスポット詳細(『GS1』) デートスポット詳細(『GS2』) デートスポット詳細(『GS3』) デートスポット詳細(『GS4』)
https://w.atwiki.jp/ooorowa/pages/375.html
第三回放送までの本編SS 二日目・深夜 NO. タイトル 書き手 登場人物 136 誤解と道化と身中の虫 ◆z9JH9su20Q 後藤慎太郎、ラウラ・ボーデヴィッヒ 137 Don t say lazy ◆SrxCX.Oges アルバート・マーベリック、篠ノ之箒 138 Bad luck often brings good luck.(人間万事塞翁が馬) ◆VF/wVzZgH. カザリ、海東大樹、バーナビー・ブルックスjr. 139 湖が赴いた丘 ◆m4swjRCmWY 衛宮切嗣、セイバー、阿万音鈴羽、織斑千冬、X、バーサーカー 140 sing my song for you~青空の破片sing my song for you~迫る闇と波瀾と未来の罪sing my song for you~Y【こころにすみついていたもの】sing my song for you~W/弱き僕らの祈りの風sing my song for you~永遠のM/サヨナラの向こう側まで ◆z9JH9su20Q アンク、大道克己、美樹さやか、脳噛ネウロ、アポロガイスト、小野寺ユウスケ 141 Just keep on walking ◆z9JH9su20Q 門矢士 142 そんなあなたじゃないでしょう(前編)そんなあなたじゃないでしょう(後編) ◆z9JH9su20Q 巴マミ、イカロス、バーナビー・ブルックスJr. 143 理解者はN/二人のケミストリー ◆z9JH9su20Q 井坂深紅郎、園咲冴子 144 喪失のP/軋む歯車 ◆z9JH9su20Q フィリップ、照井竜、笹塚衛士、桐生萌郁 145 熱【ししん】 ◆z9JH9su20Q X 146 罪の在処 ◆m4swjRCmWY 火野映司、鏑木・T・虎徹、カオス 147 泪のムコウ ◆z9JH9su20Q 火野映司、鏑木・T・虎徹、カオス 148 戦いの果てに待つものはなにか ◆2kaleidoSM 衛宮切嗣、セイバー、阿万音鈴羽、織斑千冬 149 交わした約束と残した思いと目覚めた心(前編)交わした約束と残した思いと目覚めた心(後編) ◆z9JH9su20Q アンク、美樹さやか、脳噛ネウロ、アポロガイスト、小野寺ユウスケ ▲ 二日目・黎明 NO. タイトル 書き手 登場人物 ▲ 二日目・早朝 NO. タイトル 書き手 登場人物 ▲ 第三回放送 NO. タイトル 書き手 登場人物 ▲ 本編SS(時系列順) 第一回放送までの本編SS第二回放送までの本編SS第三回放送までの本編SS 本編SS(投下順) 【000~050】【051~100】【101~150】
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/224.html
裏準決勝戦【温泉旅館】SSその2 ◆ 俺が兄貴を解放した。 問題は『いかに死ぬべきか』だ。 俺みたいな奴は、どんなクズみたいな死に方でも構わない。 でも兄貴は、――兄貴だけは『特別な死に方』でなければいけない。 あの人がそう言って、俺に力を貸してくれた。 ◆ 大会の転送役、ポータル双子の兄・ディプロマットの死体が発見されたのは、試合の1時間前だった。二人の探偵に事件を知らせにきたのは、対戦相手の山田だ。 死体が発見されたのは、この大会の為、ディプロマット専用に増設された個室。マスターキーは通用せず、カードキーは唯一、ディプロマットのみ保持している。異臭を感じ取った司会の埴井きららと選手の鎌瀬戌が、施錠された扉にタックルし破壊した(魔人格闘大会にて優勝経験のある埴井きららの攻撃力は、小型ミサイルに匹敵する)。 「なんかね!入った時ヘンな風があったの!すごい音したーっ!」 突入時の感想を、きららはこう述べた。 二人の探偵は死体の鑑識を始めた。遠藤は肉体による鑑識。こまねは化学鑑識を得意とする。 さらに、遠藤に呼ばれた大会参加者・赤帽の見解は、鑑識の結果と一致した。 「これは、パンデミック……『新黒死病ウィルス』による死だ。間違いねェ。この感じは、親父と同じだ」指定魔人暴力団、夜魔口組の組長は現在、新黒死病で生命の危機に晒されている。 死体は、玄関部屋の隣の部屋に置かれたソファーに覆いかぶさるように死んでいた。カードキーは彼の胸ポケットの中。隣部屋には一揃いの生活用具があり、彼はここで生活していたと思われる。ただ一つ、窓だけは無かった。 こまねの化学鑑識で指紋や足跡を可視化できるが、一人では範囲が広すぎる。死体には不審な点は見つからず、部屋の鑑識は先に推理を進めてから。という事になった。 探偵が警察の来る前に現場をいじくり回す理由。それは、この大会が法律的にグレーの場所である事、また新黒死病関連である事が原因だ。事は一刻を争う。 「『新黒死病』かぁ~。昨日まで元気だったディプロさんが密室で亡くなるというのは、違和感があるよねぇ~」こまねが言う。 「他殺。かのパンデミック事件の真犯人。の可能性がありますね」と遠藤。「犯人はまだ近くにいるかもしれない」彼女の叔父は、新黒死病が原因で他界している。 「あくまで可能性だけどねぇ~。まぁ、あたしの依頼内容には沿ってるかな。あたしの依頼された仕事は、大会参加とウィルス犯の逮捕なんだけど、一つ目は表のトーナメントで負けた時点でおじゃんなんだよね。二つ目を達成するために裏に参加して大会に居残っているんだけど、う~ん。ここは事件を追うべきかなぁ~」 「拙の能力で分裂することも可能ですが……。厚い身体を本体として試合に参加。薄い分身でこの施設に残って、推理ができます。但し、一時間で消えてしまいますけれど」 「それも悪くないねぇ~。初めから分身が場外にいるのは、それは、場外判定にはならないよね? どうかなぁ~?」 二人の振り向いた先に、腕を組み佇む銘刈がいた。 「構いませんよ。ご自由に」 ◆ 試合開始数分前。佐倉光素に用意された小部屋。 「分身をつくって調査、ですか。試合中でなければ私の『奇跡』で、遠藤さんの『スマート・ポスト・イット』の効果時間も伸ばせるんですけどね。……残念です」 己を神と自称する報道部学生・佐倉光素はさらにこう続けた。 「ディプロマットさん、大丈夫かな。ワン・ターレン先生に治して貰えますよね……きっと。しかし困りましたね。私の『転送』能力は空気中の光素を利用するものなので、今日のような曇り日は使えないんですよ」 「えっ そうなんすか?」山田が声をあげる。 常識的に考えて、三割の確率で事故の起きる双子の能力を利用したがる選手は、そういなかった。ほとんどの選手は自力で試合場へ向かうか、そうでなければ佐倉光素自身の転送能力で転送してもらう。今回のようなことは、異例だ。 「はい。仕方ありませんから、こっちを使いましょう」佐倉は『鉄板で出来たメモ帳』を取り出し、言った。「アンバサダーさんは向こうで待機しているはずです。場所を変えて1分ごとに転送して貰う手筈になってますが、良いですか? 順序は、クジで決めますよ?」 「それは……コピー能力ですか?」メモ帳に目をやり、遠藤が訊く。 「便利なもんだねぇ~」 「ええ、他人の能力限定で、例えば『ポータル・ジツ』を、このメモ帳に保存しておけるんです。使い捨てですけどね」 彼女が鉄のメモ帳を一枚ちぎり、宙をはたくと、白く巨大なポータルが出現した。 「三割の確率で事故かぁ……」佐倉は目を輝かせる。「あは、ドキドキしちゃいますね。どんな事が起きるんだろう」 まじかよ……、という呟きが三人の内から漏れた。おそらく山田だろう。しかし、三人の総意である。 ◆ セニオの個室 「ちょ終赤チャンじゃ~んwま~たペライ身体でwえ?何?ポータル?能力?うん、あー。覚えてない……ってウソウソイッツアジョークww行かないで行かないでw ポータル・ジツね。あー、あれはー、確か。永続・フィールド設置型の死亡非解除。えっとつまり……出したら自分で閉じねーとダメなんじゃね?w手のひらでこう、ぐ~っとねw あん中の隙間さぁ、亜空間?ての?『真空』?がどうとかで、そんで引っ張られるんだってさwマジウケルww……あれ?そんなにウケない?w そーだ終赤チャンこれからドウ?工藤っちとオケるんだけど一緒にあれ?ちょ待っwそりゃないっしょwえ?もう?オワリ?どうしても?ノリ悪ぅ~w」 ◆ 温泉旅館 (ポータルが開きっぱなしだ。産み捨て型能力だったのか?)山田は霧のなか、窓越しの旅館内部に白い光を視る。(くそっ、アンバサダーがポータルを移動させないんなら、後から来る連中を待ちぶせするべきだったな……ていうか、アンバサダーはどこ行ったんだよ?) 山田は今、温泉旅館の広い露天風呂、外周の草陰に隠れている。 周囲を取り囲むのは白い霧。彼が振りまいた『サリンガス』である。サリンには種類があり、発汗から言語障害、最終的に失禁、昏睡など様々な効果をもたらす。山田の用いたサリンは、『徐脈』――心臓の動きを弱らせる効果がある。 (近隣住民への配慮だって? ……偽原は、そんな事考えなかったぜ) 彼はもちろんガスマスクに防音具、ゴーグルと重装備で試合に臨んでいる。それでも『あえて』微弱ながら、彼はこの毒ガスを吸い込んだ。 (こまねの『音玉』。心音を探知するというのなら、心音を『フィルターに引っかからない』レベルまで下げれば良いだけの話だ) 己の覚悟を示すように、彼はあえてこの策をとった。 (遠藤終赤……毒が効かないって話だけど、むしろ『都合が良い』ね。こまねには、キミの心音しか聴こえちゃあいないぜ) リスクをとらない限り、勝利を得ることは出来無い。 彼の怒りは偽原のみならず、大会全体に向けられていた。 (二回戦……澄診ちゃんは心を砕かれ、穢璃さんはその上で脚を負傷した……。それを、医務室で『完治』したから、偽原は『試合中、対戦相手以外の観客等に危害を加える行為』に『抵触しない』だって? 偽原はルール違反を『していない』だって? だったら何でもありじゃないか……。ワン・ターレンはどんな負傷も治せるんだろう?) ◆ 医務室 「フンッ!フンッ!」突き上げる拳。「ホアタァーーッ!」ワン・ターレンの中国拳法は並の魔人の比ではない!「それで!……何ですと!?何かおっしゃいましたかね!?」 「え~っと、ディプロさんの様態を聞きたいんですけどぉ~」 「イヤァーーーッ!」徒手空拳! こまねの顔面でピタリと止まる。その手にはディプロマットの肺レントゲン写真が握られていた。「新黒死病、ですな」 「治ります……よねぇ~?」その写真を受け取り、こまねが訊く。 ワン・ターレンの『死亡確認』。絶対誤診とも呼ばれるその能力は、死亡確認という診断を覆し、完治させる……はずだ。 「これはただの病気ではない。魔人能力です」医者は俯いた。「『認識』の衝突……つまり、『矛盾』。矛盾は、解消されなくてはならない」彼は時計を指さす。 「時間がかかる。という事ですか~?」 医者は神妙な顔でこくり、と頷いた。 ◆ 「では……ディプロマット様から犯人について情報を得る事は、今は不可能……と」 「事態は思ったより深刻みたいだねぇ」こまねが封筒からレントゲン写真を取り出してみせる。「これを見ても、特に証拠らしいもんは見つからなかったよぉ」 「何も?」遠藤はそれを見る。黒ずんだ何かが見えるが、確かによくわからない。 「うん。何も~」 こまねは休憩所の椅子に腰掛ける。「ディプロさんについても調べたよ。あの人、時々口論することはあったけど、弟さんとの仲は良かったみたい。あと、司会の佐倉光素さん?とも仲良い……ていうか、一方的に心酔している節があったみたい」 「だから、佐倉様にポータル能力をコピーさせていたのでしょうか?」 「まあ、自分の能力の上位互換で、しかも『強化』と『コピー』を使いこなす自称神の美少女が目の前に現れたら、誰だってクラっときちゃうかもねぇ~」こまねはクラっとする仕草を真似してみせた。 「こちらの事態も深刻です」遠藤はセニオから得た情報を伝えた。 「ふむ」こまねはメロンクリームソーダをかき混ぜる。「ポータルは開いた本人にしか閉じられない。とすると、密室の問題が変わってくるねぇ。あの密室にポータルは無かった。 犯人がポータルを利用して密室へ入ったのなら。ポータルを開いたディプロさんはそこで犯人に襲われて、犯人がポータルで去った後に、被害者自身でポータルを閉じた事になる。その後力尽きて、倒れたぁ、と」 「犯人に再度襲われる事を恐れて……閉じた?」 「でも、ポータルの向こう側には弟のアンバサダーさんもいるはずなんだよ。助けを求めない?普通さ?」ストローに詰まったアイスを舐める。「ポータルは白くって向こう側が視えないから、アンバさんが犯人に利用された可能性も考えられるしね。まぁこれは、アンバさん以外のポータル能力者がいなければ……の話だけどねぇ~」 ◆ 温泉旅館 (いたぞ……狙い通り、探偵同士戦ってくれてら) 山田は魔人能力『 目ッケ! (アイスパイ!アイ)』で露天風呂の彼女らを捉えた。二回戦では不覚をとったが、今回は服もしっかり透視する。服だって立派な『遮蔽物』だ。前回は仕方が無かった。誰だってオッサンのボディラインは視たくない。今回は能力の『閾値』を変えて、探偵達の女性らしいボディラインシルエットが視えるようにしている。こう見ると遠藤にもそれなりにバストが在ることがわかる。二人の背はほとんど同じで、区別がつけにくい。 遠藤は地面をポスト・イット化し、銃弾を防いでいる。分厚い岩壁が飛沫を立てて湯船に落ちた。 そういえば、穢璃と澄診はしっかりやれているだろうか。と山田は思う。今回の大会施設で起きた事件、穢璃の『仇』に若干関係しているらしく、穢璃達は事件現場に向かったとの事だ。穢璃の能力をもってすれば、探偵など全員失業だろう。 (……は?) と、そこで山田は違和感に感づいた。自分の周囲に、もはや霧と大差ない程、極小の『シャボン』が無数に浮かんでいることに。 毒ガスを含んだ霧に遮られ、こまねから山田の姿は視えないはずだ。このシャボンは、戦闘領域全体に無差別に発生している。 (まさか……コウモリの超音波みたいに……!音を……『視覚情報』に変えているってのか……!? 超音波の反射で生まれた大量のシャボンを……『シルエット』として!?) こまねの『音玉』はシャボン化のフィルターを自由に設定できる。岩のきしみや、電子機器、電灯から生まれる微小な『高い周波数』……それらをかき集め、一つにすることで、彼女はどんな場所でも調達可能だ。『超音波』のシャボンを。 こまねがこちらを向いた。 (やっ……ば……気づかれた……!)敵は、予想以上の化物だ。 ◆ 大会施設 風を……感じる。と、こまねが言った。中二的な意味では無いことは確かだ。 彼女は小さなシャボンを生み出し、その動きを追った。 シャボンはとある個室の扉、新聞紙などを入れる隙間に吸い込まれる。 「銘刈さんの部屋だねぇ~」 「では、不法侵入しましょう」 二人は薄い身体を利用し、隙間から侵入する。銘刈の部屋は生活感を感じない。ここで暮らしているわけではないのだろう。 空調が激しく作動していた。室温が低い。 「扉の外側に水滴がついていました」と遠藤。「過去に『気圧が下がっていた』可能性があります」 「うん」こまねは部屋を観察、クローゼットを開けた。空気が入り、風が起こる。気圧が下がったままだったのは、このクローゼットだ。「きららちゃんも言ってたねぇ~。ディプロさんの部屋に突入するときに、『風があった』って。ポータルの引力で空気が吸い込まれれば、部屋の『気圧』が下がるからねぇ。空気の流れは、外から内に向かう。……うひゃあ~こりゃすごい」銘刈の下着に感嘆の声をあげる。「あ」 こまねは、突然耳に手を当て、言った。「足音。銘刈さん帰って来ちゃったみたい~」 「それは、実にスマートなタイミングです」 ◆ 温泉旅館 「うぉ……おおおッ!?」 空気を切り裂く衝撃。防音具が破壊された。山田はきりきり舞いで旅館に逃げ込む。 こまねの音響レーザーとでも呼ぶべき攻撃だ。その原理は『アクティブフェイズドアレイ』と呼ばれる。別々の位置から放たれた多数の音波は、位相の揃う位置で衝突、振幅を増幅させる。音は空気の振動だ、ここまでくれば、かまいたちと変わらない。 「ほう……それがこまね様の推理光線ですか」遠藤の素っ頓狂な発言を背後に聴く。 探偵は皆狂ってる、と山田は思った。 試合開始以来、山田が初めて間近で姿を確認したこまねは、潜水服のように、頭に大きいシャボンをかぶっていた。これで毒ガスを回避しているのだ。このくらいは山田も予想の範疇。 一方遠藤は、腰に長い筒のような物をぶら下げている。巻物でも入っているのか、いかにも邪魔だ。『アイスパイ!アイ』で透視すると、赤いシルエットがみえる。これは予想外。 (……おいおい、何だいありゃあ)山田には意味がわからない。 背後で破裂音。山田の閃光弾が炸裂した。二人を撒き、二階へ駆け昇る。 息をつき、呼吸を整える。 この試合は実に、心臓に悪い。 彼の駆け込んだ部屋には、『食べかけのご馳走』が並んでいる。まるで、さっきまで人がいたみたいな再現度だ。 テレビに目をやる。大会の中継は特殊なチャンネルだ。さすがに視聴不可だろう。その背後の奥の部屋に、不審なものが見えた。 (おかしいと……思ったんだよなぁ) その死体はよく見た顔だ。試合前に見た気もするが、双子だから同じに決まっている。 (透視すると……一人分、動かない影が余計にあったから……もしかしてと思ったけど。この試合、一体何が起きているんだ?) アンバサダーの死体がそこにあった。 随分前に銃殺されたのか、乾いた血が畳に滲みている。 ゴウ、と音がした。窓に水柱。いや、熱湯柱が見える。 いくつもの熱湯柱が、露天風呂の岩肌から突き上げていた。 (『間欠泉』を……掘り当てたってのか? ……『音』だけで? バカじゃないの?) 探偵と関わるとろくな事がない。やはり明治初期の廃偵令は正しかったのだ。 ◆ 銘刈の部屋 「馬鹿な……」 銘刈はただ一言、そう言い、その机の上に置かれていた『鉄製のメモ用紙』を取り上げると、ポケットに仕舞い、水を飲むと、部屋から退出した。 その鉄製のメモ用紙は佐倉光素の物ではない。遠藤が能力で机裏の鉄板を部分的に『ポストイット化』し、引き剥がしたダミーである。 銘刈の部屋の窓から逃げた二人は、薄い身体を施設の壁に貼り付け、彼女の様子を観察していた。確定とは言えない。しかし、銘刈が過去に佐倉のメモ用紙を利用した可能性は高い。ポータルも、ウィルス能力すらも、そのメモ用紙を使えば他人が利用することは可能だ。 「――『入り口一つ、出口は二つ』これな~んだ?」こまねは遠藤に向き直ると、突然なぞなぞを問いかけた。 「えっと……パ……パンツ、……ですか?」 「終赤ク~ン。顔を赤らめないでおくれよぉ。こっちが言わせたみたいじゃないかぁ~。パンツにも恥ずかしいものとそうでないものがあるし。あたしはただ、『今の状況』に例えただけなんだけどぉ」 「はぁ……ズボンとか、そういう答えでは無くてですか」 「終赤ク~ン、そっちの答えを知っているのなら、どうして先にパンツなんて言っちゃったのかなぁ~?」 他愛のない雑談ができるほど、この短時間で二人は打ち解けたといえる。 「ま、とりあえず上に登ろうか~?」 上半身を引き剥がす。 アクロバティックな動きで回転跳躍し、二人は屋上まで登り詰めた。 「銘刈さん、……メモ用紙を、どこまで捨てに行ったのかなぁ。下手に追うよりは、後で鎌瀬戌クンとかに匂いで探してもらうのが良いかもねぇ~。きららちゃんは今、司会で忙しいし」 「無関係の方を巻き込んで良いものでしょうか」 「まぁ、そんなの今更だよ~。ほら、二回戦の山田さんだって、親戚をぐちゃぐちゃにされちゃったんだし。何というか、何があっても治して貰える安心感がそうさせるのかもねぇ~」 二人は屋上の扉へ歩く。 「試合に関係していれば治療を受けられるというのは、重要な事例ですね」 「確かにねぇ~。夜魔口組の人達みたいに、大事な人を治したいっていう動機で参加している人もいるのに、参加選手は無償で治療を受けられるっていうのは、何とも皮肉な話だよねぇ~。今回、治療目的で、参加選手の中に重病患者がいてもおかしくないと思ってたんだけど、いなかったね。そういう人は健康診査で落とされちゃうのかもねぇ~」 「健康診査……ありましたね、そんなものも」 「……ところで終赤クンは、実に正直な心臓の鼓動をしているねぇ~?」 「は、い……?」 こまねは遠藤の胸に手を当てている。セクハラではない。 「何か隠しているとは思っていたんだけど、話して貰えないかなぁ? 『夜魔口組』の名前を聴いた時の、心臓の鼓動……ほらまた、ビクリと反応したね?」 ◆ 温泉旅館 「困るんだよねぇ~、そういうの。同じ探偵として。ほら、みんな平和にのんびりいきたいじゃない?」 「どうやら、貴女とは、解り合えそうにありませんね……」 「う~ん、夜魔口組を味方につけて、一体何をするつもりなのかなぁ~?」 「答える義理はありません!」遠藤が推理光線で斬りかかる。 二人の探偵が露天風呂で言い争っているが、山田には遠くて聴こえない。間欠泉は定期的に吹きあがり、場の臨場感を盛り上げている。毒霧が晴れてきた。ポータルが全部吸い込んでしまったのだ。 (謎が多すぎて頭がおかしくなりそうだ……あの、遠藤の『筒』)山田は能力で透視する。 (透視できないてことは、中に入ってるのは魔人だ……それを、試合に持ち込んだ?何故?)山田の脳裏に二回戦の悪夢が蘇る。 こまねは旅館にいる山田の位置を把握していはずだ。彼女は遠藤を誘導するように動きまわっている。 (誘導してやるから、撃て……って事か。俺に、遠藤終赤を) 彼は狙撃銃を構えた。 (ったく、元プロを舐めてんのかね。誘導なんかいらないッての) 狙撃は普通、当たりやすい胴体を狙う。映画などでよく頭を狙うのは、演出上派手だからだ。 音もなく撃つ。 防弾チョッキをも貫く銃弾が、遠藤の胸に命中。湯飛沫をあげ、遠藤の身体が湯船に落ちる。 こまねは標的を山田に変えると、音響レーザーを繰り出した。窓が割れる。 山田はひっくり返った。 「っと……ッ!? 次は俺を狙うか、そりゃそうだ……!」 ◆ 大会施設 「ところで、ポータル双子の名前って、明らかに偽名だよねぇ~」 「こまね様は、やはり偽名に敏感でいらっしゃるのですか」 「あはは、まあ偽名探偵だからねぇ~。そうだ終赤クン、この事件が終わったら、あたしの本名を教えてあげてもいいよぉ~」 二人はもう一度事件現場に戻っていた。 ポータルが開かれたと思われる場所を推理し、そこを重点的に調べる。一つだけ不審な足跡を見つけた。 「……一番新しい足跡。残ってるのはポータル付近だけだねぇ。犯人は足跡を拭って消したけど、引力の強いポータル付近だけは消せなかったんだ」 「わずかに血痕が見られます。犯人らしき足跡が、それを、踏んでいる……」 「でも、あるべき証拠は見つからないねぇ~」 これまでの推理で、二人にはある程度、犯人の目星がついている。トリックについても、調査のなかで解決策は見つかった。 「しかし、証拠がありません……」遠藤は言った。 この言葉を呟けるのが余程嬉しいのか、遠藤の頬は自然と緩んでいた。『だが証拠がない』――これぞ、一流探偵のマジックワードである。 二人は証拠を探し、怪しいと思われる場所、物品に関しては全て調べたが、犯人と結びつく『指紋』は全く見つからなかった。 「終赤クン、でもね、これは、魔人能力の犯罪だよぉ」こまねは遠藤に笑いかける。「『証拠が無いのが証拠』。こういう事は、魔人犯罪においては、往々にして起こり得る事態なのさぁ~。わかるかな?」 「証拠がないのが……証拠」遠藤はこまねと目を合わせた。「なるほど……そういう事ですか」 「――すみません、通してください、すみませんっ」 警備員を強引に引き離し、新たな女性が二人、現場に入室した。 背の高く髪の長い、理知的な女性。その後ろに、見た目若そうな、メガネをかけた女性。美人だが、どちらもこまね達より7歳以上年上だ。 山田の親戚、穢璃と澄診は、探偵達の姿をみとめると言った。「死体……は、どこへ行ったか、わかりませんか?」 「えっと、あなた方は……」戸惑う遠藤。 こまねが代わりに答える。「死体なら医務室に運ばれたと思うけど……。お二人は山田さんの親戚さんですよねぇ~?」穢璃の方を向く。「『死体から被害者を殺した犯人の情報を得る』能力でしたっけ?」 澄診が言った。「おおお、さっすが探偵さんだね……穢璃ちゃん、ここは正直に話して協力してもらったら?」 ――穢璃の能力は『死人の口に朽ち無し』という。 魔人能力によって殺害された人間の遺体に触れる事により 、殺害した魔人に関する細かな情報を取得できる。 彼女の能力は、両親の仇、裸繰埜の情報を得るために発現したようなものだ。今回のウィルス事件では、裸繰埜に関連した情報を得られるかもしれないという事で、山田の関係者として施設へやってきた。 「なるほど、それで死体が必要なのですね」説明を受け、遠藤は納得した。 「穢璃ちゃんが見れば犯人なんて一発なんだよ」澄診は自分の事のように胸を張る。「ああ、でも、ちょっとリーディングに時間がかかるんだっけ?」 「10から30分ほど、ですね。ただ、犯人の名前だけならすぐに答えられます」と穢璃。 こまねは困った顔をした。「うーん、あたしたちも答え合わせはしておきたいけど。そろそろあたしたちも分裂の効果が消えて、『消滅』しそうなんだよねぇ~。医務室まで顔を出していたら、時間切れで『解決編』がやれなくなっちゃうよ~」 「……ご心配には及びません」と遠藤。 「こんなこともあろうかと」懐からベロン、と。「遺体を拝借しておきました。拙の能力で」ディプロマットの死体を薄型コピーしたものを取り出した。 「あ、……あ……はははっ!」それを見たこまねは笑い、遠藤の手をとった。「終赤クン、あたしと同じAB型でしょう?」 「はい?」 「AB型はね、探偵と怪盗どっちの職業にも向いてるんだよぉ~」非科学的な偏見を述べて、こまねは穢璃に向き直る。「それじゃあ、犯人の名前だけ答え合わせして、探偵コンビは一足先に解決編へ向かうとしようかぁ~」 ◆ (そりゃあよくある話だよ……! 文学でもさぁ…… 銅貨が守ってくれたとか! 聖書とかペンダントでも構わないよ、別にさ……!) 「ハッハッハッハッハ! ガハッ……ハァッハッハッハッハッハッハッハ!!」 (たださ……!) 独白で絶叫するのは、山田だ。彼はいま、こまねの追撃を逃れ、透視能力で遠藤の様子を視ている。 (ただありゃあなんだ!? ……十四歳の女の子が防弾チョッキの上にさらしみたいに巻いてたのが……豪快に咳をして嗤う薄っぺらいオッサンで……そいつの肉体が銃弾の威力を削ぐほど硬いってのは……どういうジャンルのお話だ!? 猟奇ホラーか!?) 「――ッハッハッハッハ! ガキが! ……クソガキがッ! 儂を盾代わりに使いおった! 喜べ終平! 貴様の姪……は……貴様に似た……立派な……クズに成長しているぞッ!」男は何度か血反吐を吐くと、それきり黙り込んだ。失神したのかもしれなかった。 「例え旧知の仲でも、叔父上を悪く言うのは許しませんよ……もう、聴こえてませんか」遠藤は胸を抑え、湯船から立ち上がる。その口からつう、と血すじが流れる。 山田はまだ旅館内を走っている。背後でドン、と音がした。こまねが何らかの攻撃で壁を壊した音に違いない。煙と共にこまねが現れる。 「こまね! アンタ知ってて俺に狙わせたな!?」 「心音が余計に聞こえたからねぇ~。だって、気になったんだもの。しかしさすがは、薄くなっても病で死にかけても夜魔口組『組長』、凡百の魔人耐久力とは格が違うねぇ~」 『アイスパイ!アイ』で遠藤の胸が膨らんで視えたのは成長期では無かったという事だ。考えてみれば必然といえる。相手はヤクザで、度胸があり、手段を選ばない。本人にその気があるならば、『大会に参加するだけで不治の病が治る』見込みがあるならば。実行に移すことは何もおかしくなかった。会話の内容からして遠藤の死んだ『叔父』と組長は顔見知りで(敵対していた可能性が高いが)、彼女自身の能力も運び屋として適任と言える。 (じゃあ『筒』に入ってるのは何だ……!? 夜魔口赤帽の『血』か……? 大会関係者との金品のやりとりは禁止されているはずだ……!) 山田は決して油断していたわけではない。ただ、こまねが、彼の呼びかけに応じ言葉を発した意味をよく考えるべきだった。『音』に注視すれば、『無音』に鈍感になる。 山田は舌打ちする。 透視と可視を交互に切り替え移動した結果、その『引力』の源に気づくのに遅れた。ポータルの内部は亜空間に満ちており、その真空は引力を生み出す。本来あるべき引力の立てる『風音』は、無数のシャボンとなって消えていた。 (亜空間ってのは……) 引力に足をとられ、彼は廊下を転がった。苦し紛れにこまねに銃を向ける。 (『場外』に入るのか? このまま亜空間に消えたら……俺は……翅津里 淀輝(はねつり でんき)は、どうやって蘇生してもらえる?) ◆ 東京中の音が消えた。 灰色の空と立ち並ぶビル群に、虹色の歪みが溢れ出る。その数は、万を超えたかもしれない。 会場に併設された大会運営施設。その屋上で、二人の探偵と、大会参加者含む、事件に関わりのある者達が勢揃いしていた。いないのは、森田と落葉。その日不在だった選手と、温泉旅館の試合を中継しているきららと佐倉、姪刈のみである。 「おー、こりゃすげー」黒田が上空をみてわかりやすく驚いた。お前なんでいるんだ。 巨大なシャボンが上空に待機している。 「東京は音が多い」と、こまね。「かき集めて一つにしたら、こうなるんだ~」 「これは単なる保険です」遠藤が言った。「さぁ、推理を始めましょう」 赤帽とセニオが何か言うが、全てシャボンとなって掻き消える。 「もう時間がないからさぁ~。面倒なあいの手とか全部省略させてもらうよ~」こまねはゆったりした口調だ。「まずは犯人の行動を推理したから、整理してみようかぁ~」 「犯人はポータルを利用してディプロマット様を殺害しました。密室の問題はこれで解決する事ができます」遠藤は姿勢を正し、周りを見渡した。 「……まず、犯人のいる地点をXとします。ディプロマット様のいる個室をA。犯人はXにポータルを開き、ディプロマット様もAにそれを開きます。犯人は繋がった空間を通り、Aへ侵入し、ディプロマット様を殺害。その後犯人は、Xに戻り、X地点のポータルを閉じます。この時点でAのポータルは開いたままです。部屋の気圧は相当下がるでしょう。 その後、B地点にいる犯人の『協力者』……ここはもう言ってしまいましょう。『銘刈』様です。銘刈様はBにポータルを開きます。犯人はこの時点で移動しているかもしれないので、地点をX’としておきます。犯人はX’にポータルを開き、B地点へ移動する。これで事件現場が完成しました」 聴衆が何か言うが、みなシャボンとなって消える。一番シャボンが多いのは黒田だ。 「実はこの過程だけで証拠隠滅はもう成し遂げられています。セニオ様、お願いします」 「「オッケウェーーイww」」分裂され増えた二人のセニオが声をあげる。「「ポータルは中継で見たからコピれるし~w 『セット』『ポータル・ジツ』!イヤーッ!」」 二つの白い渦が生み出された。 「さあ、これで温泉旅館に残されたというポータルは、消滅したはずです」 ◆ 「はは」 山田の撃った銃弾がこまねの右脚を掠り、抉った。この負傷は後々響くだろう。 彼は助かった。彼を吸い込もうとしたポータルが、突然消えたからだ。 「助かった」引力に引きずられた慣性そのままに、彼は廊下を走った。 これでまだ戦える。必ず、遠藤とこまねを殺す。 (誰のおかげか知らないけど、礼はちゃんと言わないとな) 「ありがとよ」 ◆ 「A地点とX’地点を結ぶポータルに、B地点が結ばれれば、それは『矛盾』だよねぇ~」こまねが手を合わせて解説する。「入り口が一つ出口が二つ。『矛盾は解消されなくてはならない』。最も簡単な解決法は、情報の上書き。それは『一つ目のポータルが消える』こと」 「矛盾に打ち勝てる魔人などそういない。単純ですが、魔人能力のシステムの裏側……バグを突いたスマートなトリックと言えます」 「じゃあ……銘刈さんは、Bの部屋――銘刈さん自身の部屋で、メモ用紙を使ってポータルを開いた。その時に、ディプロマットさんの部屋のポータルは消滅した。ってことか……」鎌瀬が発言する。彼は捜査に協力し、銘刈が捨てた本物のメモ帳を突き止めた。 そういうこと。と、こまねは頷いた。 「佐倉さんはメモ帳を犯罪に利用されただけで、事件とは直接無関係。彼女自身の転送能力を使わなかったのは、彼女の能力はメモ帳にコピーできないからだねぇ」そして、ここからが重要だと言うように、こまねは人差し指を立てた。「犯人はポータルを使わざるを得なかった。それゆえに、ある程度の覚悟はしていたはずだよ。ポータルの引き起こす『事故』を……」 「犯人は、ディプロマット様の部屋に侵入する際、できるだけ足跡の残らない靴を履いていたはずです。しかし、事故が起き、犯人は失いました……片足を」 こまねは片足立ちになった。「ポータルから出たと思ったら片足が無くなってるんだから、びっくりだよねぇ。さいわい、血はほとんどポータルが吸い込んでくれたけど、ポータル付近の引力は強く、片足じゃあ非常に危険だ。犯人はすぐに足を治したけど、気づいたはずだね……足は治せるけど、『靴は直せない』。引力に逆らうためにどうしても『裸足で踏みしめる必要』があった。証拠を残すわけにはいかない、証拠の決定力を減らすために犯人は、足の復元と同時に足の『指紋』を失くす事を思いついた。わずかな時間の間に」 「指紋のない病は実在します。『絶対誤診』の能力は、何も治療だけではない。その気になれば、どんな病だって作り出せる。『新黒死病』だって……。そうですね、ワン・ターレン様」 ◆ 山田は露天風呂へ出る。 ポスト・イット化した岩地を蹴り剥がした遠藤が、倒れこむその上に乗り奇襲をしかけてきた。ポスト・イット化した物体は、分身そのものに意志が無い限り、引き剥がす動作が必要だ。遠藤の動きからその奇襲は予想できた。 撃つ。胸には効かない事を思い出し、わざと逸らす。 脇腹に一発。 もう一発が遠藤の筒をはじいた。その『筒』はカラン、と音を立てて落ちると、何度か跳ね返りコロコロとこちらに転がった。 蹴り剥がされた岩の板が、湯船に沈む。これで何度目だろう。遠藤は試合の序盤から同じ事を繰り返している。 「いただき!」彼はその筒を拾った。赤帽の血が入っているのなら、絶対に彼女に呑ましてはならない。 遠藤が脇腹をおさえ、口を開いた。「――やめろ」 ◆ 「『ワン・ターレン』。今更ですが、その名はあまり好きではありませんな。漫画のキャラクターからつけられたあだ名です」彼は言った。 周囲は沈黙に包まれた。こまねが能力を使うまでもなく。 こまねは封筒を手にしている。「先生は手袋をして、死体をソファーまで運び、空調を自動に設定した。ポータルが消え気圧が戻る過程で、嗅覚に優れたスタッフが死体を発見する事を見越して。その間、足に注意が言った結果、意識から外れていた――病気で足の指紋を失くせば、当然『手の指紋も消える』事を。……犯行後すぐに指紋を戻さなかったのは、現場に万が一、足の指紋が残っている可能性を恐れたからだね? 足の復元と指紋の消失は同時に行ったから、間に合ったかどうかもわからなかったんだ」 封筒からレントゲン写真を取り出す。「先生はこれを『徒手空拳』で手渡してくれた。つまり、『素手』だよ。あたしはおかしいと思ったんだぁ~。 この写真には…………あたし以外の『指紋』が見つからなかった」 「ふむ。なるほど」ワン・ターレンは腕組みを解いた。「しかしこれだけの根拠で、私の犯行と決めつけるのは、いささか乱暴ではありませんかな?」 「その通りです。しかし、構いません。拙どもの目的は別にありますから」 「ほお?」彼は上空のシャボンをちらと見上げた。 遠藤が続ける。「あえて言ってしまえば、いなくても問題ないのです。落葉さんも、森田様も、銘刈様も。しかし、……ワン・ターレン先生、貴方は違う。貴方は人の傷を治すのに、自傷の必要も、お金も、その他あらゆる消費制約を必要としない。規格外の治癒能力。貴方がいなければ、この大会は絶対に成立しない」 「何を仰りたい?」 「先生はさ」こまねが言う。「この大会の『裏』の運営を任された、目高機関のお偉いさんなんじゃない?ってことだよぉ~」 さらにこまねは続ける。「犯行の動機は二つ。一つは、『大会の正常な運営』のため。この大会は有名になりすぎた。何でも治せる医者の存在は、今回の終赤クンと夜魔口の行動のように、外部の人間の思惑が入り込む余地が、あまりにもありすぎた。そうすると、大会の運営に支障がでるねぇ~?」 「……今回、夜魔口組の組長……彼は厳重に取扱い、会場に持ち込まれました。それを『感染経路』として世間に公表する気だったのですね? 夜魔口組長を治さないのはもちろんとして、ただ、それだけだと『ルール上、治さなかった』と理解される恐れがあった。一般スタッフとして扱われているディプロマット様を死なせることで、『裏』と『表』の世界どちらにも情報がいきわたるようにした……『ワン・ターレンにも新黒死病は治せない』と」 ……赤帽が怒り、何か叫んだが、大きなシャボンとなって消える。 「二つ目の動機は『ワクチンの製造競争』だね」こまねが指で注射の真似をする。 「目高機関の表会社は薬品企業だからねぇ。……近年の急成長の理由がわかったよ。先生の能力を使えば、簡単に被験者に抗体を。ワクチンを作ることが出来る。新規ワクチンの市場は競争が激しく、真っ先に導入したワクチンが市場を支配する。秘密裏に、いち早く製造工程を確立し、特許をとり、市場を独占する。他企業に対する情報戦。そのために、大会関係者に新黒死病を治せる者が『いない』と、外部に思わせたかったんだ。」 「ふふ」ワン・ターレンは笑った。組まれた彼の指には、指紋が無かった。「彼ら双子は、孤児でした。それを、私が拾って育ててやったのです。仰るとおり、確かに私にはディプロマットを治せなかった。だがこれは、治療に全力を尽くした結果です。推論に推論を重ねるとは、本格派とは言い難いですな」 「そう、推論です。ですから、これから拙が申す言葉も推論にございます」と遠藤。 「恥ずかしながら、拙は貴方様の能力に頼りっぱなしです。本日の試合でも貴方様なら新黒死病を治癒できると、本気で信じておりました。一年前にこの世を去った我が『叔父』も、貴方様のお力があれば別れずに済んだかもしれない、……とも」 彼女は薄い身体の肩を抱く。肩にちらりと、探偵彫りの桜吹雪が垣間見えた。 「実は、貴方がたの企みは当に瓦解している」芝居がかった口調で言葉を続ける。 「拙がこの大会の『一回戦』を終えた時点で、我が身躯は既に、『叔父』から感染された『新黒死病』に蝕まれていたからです。 それを、試合が終わると『助かりませんな』のただ一言で、見事に消し去って下さったお医者様が、あの時いたのです。別の医師の診断書……『証拠』もございます。本当に、それは消えたのです。そしてこれは、ただの推論にすぎません。……その時のお医者様は、ワン・ターレン先生、もしや、貴方ではありませんか?」 ◆ 「は……はは。おかしいって、遠藤終赤。教えてくれよ、探偵ってのは、皆、こうなのか?」 「それに、触るな」 山田は離れた位置にいる遠藤に向かって、話しかけている。 ただし、その目線は今まさに拾った、その筒の中身に注がれていた。 彼はそれをズルリ、と取り出す。 「どうかしてる……どうかしてる。いつも持ち歩いているのか、違うよなぁ? まさか、治せると……思ってるのか?本気で? さっきの夜魔口とは違うだろ…… これはもう、人間じゃない。『腐ってる』……じゃないか。戦場に……『腐乱死体』持ち込むなんて…… そんなのもう……まともな……正気の沙汰じゃないだろ……!」 「――叔父上に触れるな!」遠藤が飛びかかる。 山田は激昂した彼女を銃で狙う。二人の間を間欠泉が吹き出し、遮った。 背中を衝撃がかする。こまねの音のない銃撃だ。既に山田は回避行動をとっている。 死体――遠藤の『叔父』は、その場に投げ捨てられた。 ◆ 「なるほど、では」ワン・ターレンは静かに言った。「私が新黒死病を治したという証明……それを公表するには、今、試合で戦っているほうの貴女が、試合で生きて勝ち残らなければ、なりませんな?」 彼が拒否すれば、遠藤が蘇生される事は無い。彼を敵に回すとは、そういう事だ。 ゆっくりと、虹色の影が落ちた。上空の巨大シャボンが高度を下げている。 (こんなもので彼を倒せるとは思えないけど……)こまねは考える。(大会会場に余計な混乱は生みたくないよね?) さらに、ぽかり、と医者の口からシャボンが浮き出た。診察の言葉を口にさせない。『絶対誤診』をこれだけで防げるかどうかは、怪しいところだ。 こまねと遠藤の要求は3つ。今回の事件の犠牲者を蘇生すること。遠藤が試合場にもちこんだ新黒死病患者を治療すること。『新黒死病』について知っていることを話すこと。 もはや推理でなく脅迫である。 ただ、次元の旅人と呼ばれる『転校生』の彼に、二人の脅しが効くかはわからない。 (それにもう一つ……彼自身が、『新黒死病』を生み出した張本人って可能性も、まだ否定できないんだよねぇ~)だからこそ二人は急いだのだ。あと5分足らずで、二人は消えてしまう。残りのメンバーで、彼に対抗できるだろうか。 じり、と赤帽と砂男が動いた。 (待てよ?)こまねは思った。(どんな誤診もできるなら、『記憶』だって操作できるはず。いや、だったらそもそも、あんなトリックなんて……) 自分たちは何か、根本から勘違いしているのではないか。 ワンターレンが足を踏みしめ、 遠藤の指が桜色の光を帯びる。 「待って下さい!」屋上の扉が開き、穢璃が飛び出した。死体のリーディングが完了したのだ。 「……わかりました! 犯人の、本当の動機が」 ◆ 「そういえば、もうとっくに一時間経ってるねぇ~」こまねが言った。「会場に残ったあたし達は、ちゃんと犯人を捕まえたかなぁ? 終赤さん」 こまねの問いかけに、遠藤は答えない。投げ捨てられた『叔父』が気になるようで、何かをぶつぶつと呟いている。場は完全に三すくみの様相を呈していた。一定間隔で吹き出す間欠泉の動き、それを把握できるこまねがやや戦いをリードしており、山田と遠藤の中心、湯船と湯船の間を渡り歩く。 (こまねがいる場所はいつも『間欠泉』の近く。彼女は足を負傷している。間欠泉を盾にするしかない)山田はマグナム銃を構える。(俺の透視で、吹き出した間欠泉越しに撃つ。相手も超音波でこちらの位置を把握できるが……俺の方が速い) パン、とこまねの銃が遠藤の肩を穿った。 同時に吹き出す間欠泉。遠藤が悲痛な叫び声をあげた。 山田は火傷覚悟で距離を縮める。 山田の視界が霞む。今更サリンの効果が効いてきたのか。血が足りない。 (チクショウ、ふざけんな、今ごろになって……) 銃を構える。間欠泉の先、透視で捉えたこまねの赤い影。 それが、山田の狙いを避けるように横へと吹き飛んだ。 (跳んだ……!?負傷した脚で?) いや、音響レーザーだ。(アイツ……!とっさに それで『自分自身』を撃ちやがった! 片腕を盾に……犠牲にして!) こまねは湯船の浅瀬へと倒れこみ、山田の銃撃をかわす。 「――っ痛ぁッ」 山田の背中に衝撃が走った。音響レーザーが彼の背中を吹き飛ばす。 「は…………ぁ」ふら、とこまねが立ち上がる。山田に狙いをつけようと、生き残った腕で銃を構えた。一方、離れた場所で、肩を押さえた遠藤がぶつぶつと、何か呟いている。こまねだけがそれを聴きとり、口を開いた。 「……………………カウント?」 その『消滅』は無音で起こった。ゆえに、こまねの反応は遅れた。 遠藤が試合序盤に湯船に放り込んだ分厚い岩の『コピー』が、時間切れで消滅した。消滅した空間は水中で『真空』を作り出す。『真空』が何を生むか、我々は良く知っている。引力だ。 その渦は浅瀬にも動きを与えた。湯の動き。こまねの負傷した脚はそれに取られる。 乾いた音がしてこまねの頭部がはぜた。 「……撃てばさぁ、俺が勝つんだよ」 山田は銃を下ろした。「まともなフォームで撃てる機会さえくれれば、さ、……俺が外すことはないんだから」目をこすり、次に、遠藤に狙いをつける。 遠藤は岩を背に、腕だけを前に伸ばすが、すぐに諦めたように下ろした。 「叔父上」遠藤がつぶやいた。「不調法の姪をお許し下さい」 パン、と山田の銃が遠藤の頭部を吹き飛ばし、殺した。 同時に、彼は両足に強烈な熱を感じた。足もとを見る。 「つ…………ッ『分身』……か!」両足が切断されている。遠藤の推理光線だ。 時間切れで会場内の分身が消えたのなら、遠藤は身体の厚みを分割してもう一度分身が作れる。それはわかっていた。だが、『等身大』の分身が彼女の身体から離れたのなら『透視』で気づけなければおかしい……。そう考えた、傾く彼の、視界の端に映ったそれは――『等身大』ではなかった。例えるならそれは、『赤帽』に似ていた。 (『横』や『前後』ではなく……! 『縦』の厚み――『身長』を犠牲にして……分裂したのか……! 体躯十数センチの、小人となって……!) 両足を切断された山田の肉体が、ぐらりと傾き、湯船に沈む。 小人は袴の内に隠れていたはずだ。視界が『正常なら』、彼の透視で見抜けたであろう。 (くそっ……わかってたよ) 彼の視界が赤く霞んでいたのは、サリンの毒によるものだけではない。 (あの……『腐乱死体』……間欠泉がそれを吹きあげて……粉々に砕いて、霧と混ざった……それを使って! ……遠藤終赤! 叔父の命と引き換えに、アイツ、『塞ぎ』やがった!) ごぼ、と口から空気が漏れる。 (霧状に砕けた『魔人の肉』で……『塞ぎ』やがったんだ……!俺の『透視』能力を――『魔人以外の物体を透視』する、俺の『視界』を……!) 湯水が血と混ざり、ただでさえ赤い視界を一色に染める。 彼はその中に、桜色を帯びた光線を視た。 ◆ 大会施設 試合に敗北した山田は、親戚の穢璃、澄診と休憩所で会話している。 「すみません山田さん……、私の勝手な行動で、試合中のフォローができなくって……」 「あーあー!いや、いや、もう、そういうの無しっすよ!」山田は耳を押さえる。 「そうそう、私たちの行動原理の半分くらいは穢璃ちゃんの為で、あとの半分は下心なんだから」澄診が指で銭の形をつくる。「しっかし、今回はよくわからない事が多すぎて、混乱しちゃったよ」 混乱なら俺のほうがひどい。と山田は思った。ポケットから、名刺を二枚取り出す。「『ホエールラボラトリ』の幹部と……『魔人警察』の高官。試合場の、旅館の部屋で見つけた」 ――試合場で、何故?この立場の者たちが取引を?「わけがわからんけど、臨時で得たネタとしちゃあ悪くないよな」 「その件に関しては、私が話を聞いてますので、お話しします」穢璃はそう言ってほほ笑んだ。 ◆ 「兄貴、聴こえるか? ああ、俺だ。兄貴と同じく、師父に蘇生してもらえた。顔も変えてもらってな。大丈夫、機関も銘刈も、師父がトリックを使って兄貴を殺害したと思っている。ま、実際死んだんだがな。身体の厚みは一週間以内に治るそうだ。ああ、元々は遠藤を脅して協力してもらう計画だったが、結果オーライだ。遠藤の能力で死体をコピーして、佐倉の能力で効果時間を延ばしてもらった。これで俺達も晴れて機関の道具から解放だ」 青年は自分の掌を見る。紙のように薄い指。 「機関はすぐに死体を処分するさ。魔人警官との『口裏合わせ』が失敗したから、引き渡したくないはずだ。……彼らの取引は機関の施設――『要人御用達の温泉旅館』で行われていた。俺はそこでポータルを開き、師父を銘刈の部屋へ送った。その後、俺は東京郊外に出て、『試合用の温泉旅館』にポータルを開くはずだったが、そうしなかった。だって、温泉旅館なんてどこも同じだろ? ま、普通の温泉で間欠泉なんて出てこないけどな。俺は御用達の方の旅館にポータルを放置して逃走、射殺された。どっちにしろ殺される予定だったけどな。その後どうなったと思う?」 青年はふっ、と笑った。 「ポータルから現れた山田って選手がサリンを振りまいたもんだから、奴ら、そこを閉鎖して『試合場』にしちまう他なかったんだ。笑えるだろ? いや、……師父なら大丈夫だ。何たって転校生だぜ? ……ははっ、ああ、佐倉にもきっとまた会える。じゃ、また、電話する。俺も……名前か。新しい名前を、考えなきゃあいけないな……」 その、無名の青年が下水道の蓋を押し開けると、地下に閉じ込められていたシャボン玉が二つ、ふわ、と外へ飛び出した。偽名探偵こまねが東京中からかき集めようとした際、偶然、取り残されたシャボン玉。雲間から見える青空の下、二つは競うように空へと消えていった。 ◆ 「遠藤様ですね。お帰りなさいませ」ホテルのドアマンが挨拶する。 「え、ああ、はい」 顔を覚えているのか。別に自分がここに泊まっているわけではないので、少し気恥ずかしい。 確かに遠藤であることに違いはないのだが。探偵帽を押さえ、会釈する。 遠藤終赤はここの10階に泊まっているはずだ。私はエレベーターに乗り込む。 彼女と会うのは久々だ。 会ったらまずは、どうすればいい? 13歳の時点で『叔父』を『失い』、身寄りを失くした少女。 ……とりあえず謝っておくべきか。 いや、叱るべきだろうか。全くあの子ときたら、向こう見ずの命知らずだ。 着物の袖を直し、ドアのベルを鳴らす。 「どうも、終赤さん、私です」 「はい」遠藤終赤が扉を開ける。その顔がぱあ、と輝いた。「あ……すみません、こんな格好で、とんだ失礼を」終赤は自分の寝間着姿に気づき、顔を赤くする。 「構わないよ」私はできるだけ格好つけて、優しく言った。帽子を脱ぐ。「迷惑かけたね」 「とんでも御座いません!」終赤は大きく頭を下げる。 念のために断っておくが、『遠藤』と呼ばれた私は彼女の分裂体ではない。 見たまえ、私と彼女の身体の厚さは普通と変わらない。 「身体検査に行ってきたよ」私は言った。 「どう……でしたか?」 「いたって健康! 死んでいたのが嘘のようだ」 「良かった……」 「それにしても終赤さんの分身は、ひどい嘘をついたもんだね」 「どの嘘……でしょうか?」 私は思わず笑って、言った。「ほら、叔父からウィルスが感染ったとかいう……」 「ああ……」終赤はベッドに座り込んだ。「ですね。酷い法螺です」顔を手で覆う。「大会に出る人間は、今回のように健康診査がある。新黒死病レベルの病にかかっていれば、さすがに治療を強制されるか、それが出来なければ失格でしょう」 「まあ、替え玉の可能性もあるから、あながち嘘とは思えないさ」私は腕を組み、壁によりかかった。「それで、今回は本当に?」 「はい。恥ずかしながら、『本当に発病』してしまいました。すぐにこのホテルから去らねばなりません」 「なるほどね……それで自分に」私は顔を引き剥がす。「身代わりを頼んだわけだねぇ~、健康診査の」かつらをとり、銀のウェーブがかった髪を広げた。「血液型と身長が同じとはいえ、さすがにバレないか冷や冷やしたよ~」 「こまね様にしか出来ませんでした。『顔』は拙の能力で作れても、声までは作れません」 「お役に立てて光栄だよぉ~」本心だった。偶然とは言え、彼女の叔父が永遠に生きて戻らない結果となったのは、私の行動も関わっているからだ。粉々に水に溶けてしまった人間は、さすがのワン・ターレンでも治せなかった。 「それで、どうするの~? ワン・ターレン先生は次の試合までには、機関から戻ってくるんだよねぇ~?」私は訊いた。 「はい。幸い次の試合まで時間があります。拙は、それまでには苦しんで死ぬでしょう」彼女は両手を膝に置き、私を見る。「穢璃様の能力で、拙の死体を『みて』頂きます。……そうすれば、『新黒死病』の大元となる能力者の正体が掴めるはずです」 「はあ」 この子は名前を、『ドM探偵・終赤』に改めるべきだと思った。どこまで自分から苦しむのが好きなんだ?……やっぱり叱るべきかもしれない、一応年長者として。 終赤はふふ、と笑った。「これで、こまね様のお役にも立てますね。その後で、先生に拙を蘇生してもらいましょう。機関は信用なりませんが、あの方は信用出来ます」 「信用……ねぇ~」そう聞いて、私はそれを思い出した。「そういえば、終赤さんに、事件が解決したら、あたしの本名を教えるって約束してたよねぇ」 「え、……そうなのですか?」 「うん。でも、まあ、探偵なら推理して当ててくれても良いと思うよぉ~」 私は組んでいた腕をほどき、両手を翻す。「さ、……どうするかな? 終赤さん」 ――何故私が、消えたはずの分身達の『会話』を知っているのか? まあ、 可能性は色々と考えられる。 好きに考えてくれて構わない。 ……探偵だからって、 全部を全部、説明する必要なんて、 本当は、どこにも無いんだからね。 裏トーナメント第二回戦◆温泉旅館の戦い◆終 このページのトップに戻る|トップページに戻る